日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS21] ガスハイドレートと地球環境・資源科学

2019年5月28日(火) 13:45 〜 15:15 A02 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:戸丸 仁(千葉大学理学部地球科学科)、八久保 晶弘(北見工業大学)、谷 篤史(神戸大学 大学院人間発達環境学研究科)、後藤 秀作(産業技術総合研究所地圏資源環境研究部門)、座長:八久保 晶弘(北見工業大学)、戸丸 仁

14:15 〜 14:30

[MIS21-08] メタンハイドレート分解が誘発した斜面崩壊:隠岐トラフ南西部の海底地すべりの事例

*石田 直人1森下 翔太2海老沼 孝郎1戸丸 仁3松本 良4 (1.鳥取大学大学院 工学研究科 社会基盤工学専攻、2.鳥取大学 工学部 社会システム土木系学科、3.千葉大学 理学部 地球科学科、4.明治大学 研究・戦略推進機構 ガスハイドレート研究所)

キーワード:ガスハイドレート安定領域下限、海底地すべり、表層型メタンハイドレート、隠岐トラフ、日本海

ガスハイドレートが周辺環境に与える影響のひとつに,安定領域下限(base of gas hydrate stability: BGHS)の変動が誘発する斜面崩壊がある(例えば,Sultan et al., 2004).日本海南部の隠岐トラフ南西部には多数の海底地すべりが存在するが(池原ほか,1990),近年の調査により,この海域は表層型メタンハイドレートの胚胎域であることが明らかになりつつある.日本海のBGHS深度は浅く,外的要因の影響を特に受け易いことが予想される.明治大学ガスハイドレート研究所による2018年学術調査航海(使用船舶:第七開洋丸(海洋エンジニアリング))では,隠岐トラフ南西部の海底地すべりを対象にBGHS変動との関連について検証した.

 調査対象とした海底地すべりは鳥取市の北方約80 kmの隠岐トラフ南西斜面に位置しており,周辺にはマウンドやポックマーク等の表層型メタンハイドレート胚胎域に特徴的な海底微地形が多数分布している.地すべりのある斜面の傾斜は約1.6°で,すべり方向は東北東,地形変状のすべり方向の長さは20 kmに達する.地すべり近傍の水深700 m,および水深1000 m地点の地温計測の結果,地温勾配はそれぞれ83.13 mK/m,99.42 mK/mと求められた.これから現在のBGHS深度は,水深700 m地点で115.1 mbsf,水深1000 m地点では130.5 mbsfと見積もられる.

 地すべりの末端で採取したコアには,ATテフラの下位に泥礫を含む崩壊堆積物が見られた.堆積速度から換算して,この海底地すべりは約34 kaに発生したと考えられる.この年代は最終氷期最盛期に向けた海水準低下期にあたり,海水準は現在より100 m以上低かったとの試算がある(Spratt and Lisiecki, 2016).海水準低下量と堆積速度に基づいてBGHSを復元したところ,地すべり発生当時,地すべり土塊の直下にBGHSが位置していたことが明らかになった.この海底地すべりはBGHSの上昇途中,つまりメタンハイドレートの安定領域が縮小しつつある過程で発生している.メタンハイドレートの分解が進行するにつれて斜面の地盤支持力が失われ,BGHSをすべり面として斜面が滑動した可能性が強く示唆される.

 本研究は,経済産業省のメタンハイドレート開発促進事業として産業技術総合研究所の再委託により実施した研究の成果を一部に使用した.