日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS23] 惑星火山学

2019年5月27日(月) 09:00 〜 10:30 106 (1F)

コンビーナ:野口 里奈(宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所)、諸田 智克(名古屋大学大学院環境学研究科)、片岡 香子(新潟大学災害・復興科学研究所)、大槻 静香(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)、座長:野口 里奈(宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所)、下司 信夫(産総研 活断層・火山研究部門)

09:45 〜 10:00

[MIS23-04] 衛星イオの火山活動、大気形成と散逸

*土屋 史紀1古賀 亮一1米田 瑞生2鍵谷 将人1吉岡 和夫4疋田 伶奈4村上 豪3木村 智樹1山崎 敦3北 元3吉川 一朗4 (1.東北大学、2.タダノ、3.ISAS/JAXA、4.東京大学)

キーワード:火山、イオ、ひさき衛星

木星の衛星イオは、太陽系で最も活動的な火山活動を持つ天体として知られている。衛星の大気は主に二酸化硫黄からなる火山ガスで構成されており、この大気は木星の磁気圏へと散逸したのちイオン化し、木星磁気圏内のプラズマの9割を占める重要なプラズマ源となる。本講演では、極端紫外線望遠鏡衛星「ひさき」と地上の可視望遠鏡による、衛星から散逸した火山ガスの観測と、地上の赤外望遠鏡による火山のホットスポットの観測から、衛星イオの大気形成と大気散逸、並びに、火山タイプに対するこれらの対応について議論する。
 ひさき衛星は地球周回軌道から太陽系惑星の大気・電磁圏の観測を目的とした極端紫外線衛星である。2013年9月に打ち上げられ、衛星イオから散逸ガスのうち、二酸化硫黄ガスの散逸・解離により生成した酸素原子と硫黄・酸素イオン発光のモニタリングを行っている。東北大学のハワイ・ハレアカラ観測では、火山起源ガス中の微量成分であるNaClが散逸・解離したNa発光の可視光観測を行っている。NaClは昇華温度が650K(~1pbar)と高い。このため、NaClの昇華は衛星表面の溶岩流や溶岩湖では昇華が起きず、プリューム活動を伴う高温のホットスポットで発生すると考えられている。このため、NaClの解離により生じるNaはプリューム活動の指標となる。
 これらの光学観測は2013年末から2016年にかけて連続的に実施され、幸運にも、2015年1月に、イオでの火山活動に伴う明瞭な発光強度の増加(event 1)の観測に成功した。Na発光がこの時のみ明瞭な増光を示したのに対し、ひさき衛星による原子・イオン発光の観測では、この他に、2014年12月、2016年1月、4月に3回の弱い発光強度の増光を示した(event 2,3,4)。この期間中に、赤外線によるイオの熱放射観測が海外の観測グループにより実施された。赤外線観測は木星による衛星蝕を利用して火山の熱放射の空間分布を観測しており、火山の位置の同定が可能である。この観測から、event 1ではプリュームタイプのKurdalagonが、event 2,3,4では溶岩湖タイプのLokiの活動度の増加が関連していると考えられ、event 1でのみ強いNaの発光が観測されたことと矛盾がない。ひさき衛星からは、すべての事例で酸素原子・イオン、硫黄イオンの増光が確認されたが、event1の増光はevent 2,3,4に比べ強く、event1でのみ大量の酸素・硫黄原子がイオ大気から散逸したことを示している。
 これらの観測事実から、イオの大気生成と大気からの散逸の大きさは、イオの火山活動に依存しており、特にプリュームタイプの火山の寄与が大きいことが推測される。イオの大気形成過程ついては、火山ガスによる直接生成と衛星表表面の二酸化硫黄の霜が太陽光による加熱で昇華による説の2つが議論されてきたが、近年の観測的研究は後者を支持している。講演では、本研究の観測則結果から示唆されるイオ大気の形成・散逸過程と火山タイプとの関係について議論する。