日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-TT 計測技術・研究手法

[M-TT48] 地球化学の最前線

2019年5月26日(日) 13:45 〜 15:15 201A (2F)

コンビーナ:角野 浩史(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻相関基礎科学系)、横山 哲也(東京工業大学理学院地球惑星科学系)、小畑 元(東京大学大気海洋研究所海洋化学部門海洋無機化学分野)、座長:角野 浩史小畑 元(東京大学大気海洋研究所)、横山 哲也(東京工業大学)

14:45 〜 15:00

[MTT48-05] 非晶質炭酸カルシウムの結晶化による局所U–Pb年代測定のための標準カルサイトの合成

*宮嶋 佑典1斉藤 綾花1鍵 裕之1横山 立憲2平田 岳史1 (1.東京大学大学院理学系研究科地殻化学実験施設、2.日本原子力研究開発機構東濃地科学センター)

キーワード:非晶質炭酸カルシウム、LA-ICP-MS、標準物質、U–Pb年代測定

炭酸塩は生物殻や鍾乳石を構成するほか、断層沿いや海底の熱水・冷湧水域で地球史を通じて形成されてきた。それらの形成年代を直接求めることができれば、炭酸塩が記録する古環境情報やテクトニクス、地殻内の水・物質循環に詳細な時間軸を入れることができる。生層序やSr同位体層序が適用できない断層カルサイト脈などの年代測定には、レーザーアブレーション-誘導結合プラズマ質量分析計(LA-ICP-MS)を用いた高空間分解能なU–Pb放射年代測定が有効である(Roberts & Walker, 2016; Beaudoin et al., 2018)。LA-ICP-MSを用いた年代測定では、アブレーション時やICP内で起こるUとPbの元素分別が試料の主成分(マトリックス)に応じて異なるため、それを補正するための標準物質が必要である。天然のカルサイト標準物質として、Roberts et al. (2017) によりWC-1(254.4 ± 6.4 Ma)が提案されているが、UやPbの濃度、同位体比が不均質であるという問題点がある。そこで本研究では、濃度・同位体比が均質なU、Pbを含むカルサイト標準物質の合成を行った。元素を添加した母液から非晶質炭酸カルシウム(ACC)を沈殿させ、それを加圧または加熱し結晶化させることで、Srなどの不適合元素をカルサイト中に取り込むことができる(Matsunuma et al., 2014; 斉藤ほか、2017)。この手法を応用し、UとPbを含む溶液を添加したACCを経ることで、U、Pbが取り込まれたカルサイトを合成した。LA-四重極型ICP-MS(LA-Q-ICP-MS)を用いて、合成したU、Pb添加カルサイト中の元素の均質性を評価したところ、10点分析の標準偏差(2SD)でU/Ca比は8%以下、Pb/Ca比は13%以下の均質性があることがわかった。LA-多重検出器型ICP-MS(LA-MC-ICP-MS)を用いて、合成カルサイトのU、Pb同位体比の均質性を評価した結果、207Pb/206Pb比は1%程度均質である一方、238U/206Pb比は3%~11%の不均質があることがわかった。後者のU/Pb比の不均質は、未知試料の年代測定精度に伝播される。U、Pb添加カルサイトの元素分別補正への実用性を確かめるため、WC-1カルサイトの年代測定テストを行った。Caを内標準としLA-Q-ICP-MSで測定した合成カルサイトのU、Pb濃度から238U/206Pb比を計算し、これを参照値とした。参照値とLA-MC-ICP-MSで測定した同位体比とのずれから補正係数を求めてWC-1に適用したところ、参照年代と約3%の精度内で一致する年代値(246.6 ± 7.3 Ma)が得られた。今後同位体希釈法によってU、Pb添加カルサイトの同位体比の正確な値付けを行うことで、少なくとも約10%以内の精度での年代測定が可能と期待される。