日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS07] 太陽系物質進化

2019年5月27日(月) 10:45 〜 12:15 A02 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:癸生川 陽子(横浜国立大学 大学院工学研究院)、藤谷 渉(茨城大学 理学部)、小澤 信(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、松本 恵(東北大学大学院)、座長:癸生川 陽子小澤 信

11:45 〜 12:00

[PPS07-17] Reduced CVコンドライトに含まれる細粒CAIの初生26Al/27Al比の分布

*川崎 教行1パク チャンクン2坂本 直哉1圦本 尚義1,3 (1.北海道大学、2.韓国極地研究所、3.宇宙科学研究所)

隕石に含まれるCAI (Ca-Al-rich inclusion)は,太陽系最古の岩石であり [1],太陽組成の高温ガスから凝縮した鉱物により構成されている [2]。ほとんどのCAIは,娘核種26Mgの過剰として検出可能な量の26Alを,その形成時に含んでいた [3]。26Alは半減期約70万年の短寿命放射性核種であり,26Al−26Mg相対年代系は,初期太陽系の年代学的研究に広く用いられてきた。近年二次イオン質量分析法により,CAIの高精度26Al−26Mg鉱物アイソクロンが取得され始め,個々のCAIそれぞれについて,その形成時の初生26Al/27Al比が明らかになってきた [e.g., 4−9]。CVコンドライトに含まれるCAIは,fluffy Type A CAIや細粒CAIといった,ガスからの高温凝縮物とされる「凝縮物CAI」と,太陽系円盤内で溶融・再固化を経験したとされる「火成CAI」とに大別できる。これまでに,火成CAIと,凝縮物CAIのうちfluffy Type A CAIは,それぞれが,少なくとも約5.2 × 10−5から4.2 × 10−5の初生26Al/27Al比の広がりをもつことがわかっている [5, 6, 9]。しかし,凝縮物CAIのうち,細粒CAIの高精度26Al−26Mg鉱物アイソクロンの測定例は,まだ1例のみ [4]で,その初生26Al/27Al比は約5.2 × 10−5である。本研究は,「凝縮物CAI」と「火成CAI」の初生26Al/27Al比の分布を,より系統的に比較するために,reduced CVコンドライトであるエフレモフカ,ヴィガラノ,TIL 07007隕石に含まれる,5つの細粒CAIの高精度26Al−26Mg鉱物アイソクロンデータを,二次イオン質量分析計 (CAMECA ims-1280HR,北海道大学設置)を用いて新たに取得した。
新たに得られた5つの細粒CAIの26Al−26Mg鉱物アイソクロンはそれぞれ,(5.19 ± 0.17) × 10−5,(5.00 ± 0.17) × 10−5,(4.53 ± 0.18) × 10−5,(4.43 ± 0.31) × 10−5,(3.35 ± 0.21) × 10−5の初生26Al/27Al比を示した。2つの細粒CAIの初生26Al/27Al比は,上述の細粒CAIの文献値 [4]およびCVコンドライト中のCAIの全岩アイソクロンから求められたカノニカル26Al/27Al比 (約5.2 × 10−5) [10, 11]とほぼ同一であった。一方,他3つの細粒CAIの初生26Al/27Al比は,5.2 × 10−5よりも明らかに小さい。本研究により得られた細粒CAIの初生26Al/27Al比は,(5.19 ± 0.17) × 10−5から (3.35 ± 0.21) × 10−5の広がりを示し,44 ± 7万年の形成年代幅に相当する。これは,火成CAIについて知られている,初生26Al/27Al比の約5.2 × 10−5から4.2 × 10−5という広がり(約20万年の形成年代幅に相当)[5, 6]よりも大きい。
これまで,CVコンドライト中のCAIの全岩Al−Mg同位体データが,一つのアイソクロンライン上にきれいにプロットされていることから,(1) CVコンドライト中のCAIの形成領域において26Alが均一に分布していた,さらに,(2) CAIダストの高温凝縮プロセスは,太陽系形成最初期の約2万年以内に完了していた,とされていた [10, 11]。しかし,本研究により得られた細粒CAIの初生26Al/27Al比の広がりは,26Alが均一に分布していた場合には,太陽系星雲ガスからの細粒CAIの高温凝縮プロセスが,太陽系形成最初期の少なくとも約40万年間続いていたことを示す。もしくは,初期太陽系のCAI形成領域において,少なくとも約3.4 × 10−5から5.2 × 10−526Al/27Al比の幅に相当する,26Al分布の不均一があったのかもしれない。

[1] Connelly et al. (2012) Science 338, 651−655. [2] Grossman (1972) GCA 86, 597–619. [3] MacPherson et al. (1995) Meteoritics 30, 365–386. [4] MacPherson et al. (2010) ApJL 711, L117−L121. [5] MacPherson et al. (2012) EPSL 331−332, 43−54. [6] MacPherson et al. (2017) GCA 201, 65−82. [7] Kawasaki et al. (2017) GCA 201, 83−102. [8] Kawasaki et al. (2018) GCA 221, 318−341. [9] Kawasaki et al. (2019) EPSL 511, 25−35. [10] Jacobsen et al. (2008) EPSL 272, 353−364. [11] Larsen et al. (2011) ApJL 735, L37−L43.