日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG55] 地殻流体と地殻変動

2019年5月30日(木) 09:00 〜 10:30 A11 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:北川 有一(産業技術総合研究所地質調査総合センター地震地下水研究グループ)、小泉 尚嗣(滋賀県立大学環境科学部)、梅田 浩司(弘前大学大学院理工学研究科)、角森 史昭(東京大学大学院理学系研究科地殻化学実験施設)、座長:北川 有一(産業技術総合研究所地質調査総合センター地震地下水研究グループ)、角森 史昭(東京大学大学院理学系研究科地殻化学実験施設)

09:35 〜 09:50

[SCG55-03] 2016年熊本地震後の河川流量変化

*小泉 尚嗣1箕手 慎介1田中 達也1 (1.滋賀県立大学環境科学部)

キーワード:熊本地震、河川流量、透水性、強震動

1.はじめに
 大規模な地震が起こった後、その場所の地下水や河川流量に変化が起こることがある.過去には、地震による河川流量・湧水量・井戸水位の変化が報告されている.これらの報告の多くに共通する変化は、低地での河川流量・湧出量の増加がある一方、高地では地下水位の低下が認められる点で、数ヵ月から数年またはそれ以上に続くとされる.このような地下水・河川水の変化は、地震による地盤の透水性の増加で説明されてきた(Rojstaczer et al., 1995; Wang and Manga,2004).降水量が世界平均の約2倍で,水資源の豊富な日本においては,このような地震後の河川流量や地下水の変化はあまり注目されてこなかった.しかし,これは,明らかに震災リスクの1つであり,日本でも充分研究する必要が有る.
 平成28年(2016年)熊本地震は、2016年4月に熊本県およびその周辺で発生した一連の地震である.この地震は河川水・地下水に大きな影響を与えた(一柳・安藤,2017;佐藤・他,2017).小泉・他(2018)は熊本地震後に,同地震の強震動域周辺で河川流量が増加したことを報告したが、データ解析期間が3年(2014年~2016年)で短いという課題があった.そこで本研究では、解析期間を長いもので1993年から2017年(25年間)にして再度解析を行った.

2.方法
 国土交通省の水文・水質データベースから熊本県の14点の河川流量データを、気象庁のデータベースから熊本県の降水量データを入手した.それらの時間変化を調べると共に、積算降水量と積算流量との平均的な関係から、流量における積算降水量の影響を除去した流量残差の時間変化を調べた.また,熊本地震前後の降水-河川流量関係の変化も調べた.

3.結果と考察
 河川流量を解析した14点のうち、主に阿蘇山麓を上流とする河川の4地点で河川流量が増加したように見える.しかし、その増加は熊本地震の直後でなく、同地震の約2か月後の大雨の後に増加していた.したがって,この変化は地盤の透水性増加では説明できない.さらに,熊本地震後に降水量が大きい時に,(降水時流量)/(降水量)の比が,熊本地震前より大きくなる傾向が認められた.
 もし,土壌水分保持能力が熊本地震後に低下すれば、大雨時に降水時流量が熊本地震前に比べて増加することが説明できる.熊本地震では、強震動域周辺で多くの土砂崩れ等が発生した.それによって土壌水分保持能力が下がった結果,河川流量に変化が生じた可能性がある.