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[SSS14-17] 4m長の模擬断層上で観察されたすべり速度に依存する前震活動
キーワード:岩石摩擦実験、ゆっくりすべり、前震、すべり速度
断層およびその周辺で観測される微小地震活動は,その断層面や環境の応力の状態を反映していると考えられる.しかしながら,本震直前の地震活動,いわゆる前震がどのように引き起こされ断層の主破壊に至るのかは明らかではない.その過程を実験室において再現し議論しようとしても,従来のcmスケールの岩石試料を用いた実験研究では空間分解能が十分ではなかった.そこで本研究では,防災科学技術研究所が新たに開発した長大岩石試料摩擦試験機(Figure 1)を用いて実験をおこない,何が前震活動を制御しているのかに注目して調査をおこなった.実験試料として直方体のインド産変はんれい岩を用い,L4.1 m×W0.1 m×H0.2 mの試料の上にL4.0 m×W0.1 m×H0.2 mの試料を積み重ねている.したがって模擬断層の面積は長さ4.0 m,幅0.1 mである.この断層面へ均一な垂直応力を与えるため上側試料の上面を8枚のフラットジャッキを使って加圧した後,下側試料の西端を水平方向にジャッキで載荷してせん断荷重を与えている.フラットジャッキの圧力は約6 MPaに固定した.加えた両荷重の巨視的な測定に加え断層面上で発生するローカルな現象をモニターするため,16個のAEセンサー(Olympus V103-RM),40枚の3軸半導体ひずみゲージ(Kyowa SKS-30282),10個の渦電流変位センサー(Shinkawa FK-202F)を断層に沿って設置し測定をおこなった.本研究では比較的速い速度で載荷をおこなったFB02-006, 008(載荷速度:67-185 kPa/s)および比較的遅い載荷速度で実施したFB02-007, 010(2-7 kPa/s)の4つの実験を対象とする.総変位量が2 mmに至る直前の7つのスティックスリップイベントに注目して調査をおこなったところ,どの条件においても高速な主破壊の発生直後から断層の東西両端が極めて低速(< ~20 μm/s)ながらも変位し続けていることが分かった.さらに,これらの定常的なゆっくりすべりが断層中央部に達した後,比較的高速な前駆的ゆっくりすべりが励起され主破壊に至っていることが分かった.両端からすべりが始まりやすいことは有限要素法による準静的なモデリングの予測と調和的である.断層両端の定常的なゆっくりすべりの量は低載荷速度の実験において顕著であった.しかしながらこれらのゆっくりすべりによって即座に弾性波を放出するイベントが誘発されることはなく,ほぼ全てのイベントが主破壊の直前に集中して観測された.したがってこれらの弾性波イベントを以後,前震と呼ぶ.何が前震活動を制御しているのかを明らかにするため,定常ゆっくりすべりの累積すべり量と前震の時空間分布とを比較した.その結果,前回の主破壊から前震が発生するまでの累積すべり量が断層端部では約10 μmに達する一方,断層中央部では1 μm程度であったことが分かった(Figure 2a).次に各領域のすべり速度と比較したところ,上述する前駆すべりによってすべり速度が数100 μm/sに達した領域で前震が発生していることが明らかとなった(Figure 2b).これらの結果は,本実験で観察された前震の発生が累積すべり量ではなく瞬間的なすべり速度によって制御されていることを示唆している.本研究結果は,室内実験で観察された高い載荷速度によってすべりが不安定となる傾向(McLaskey and Yamashita, 2017, JGR; Xu et al., 2018, Tectonophysics)や,2011年東北沖地震後にプレートの沈み込み速度が増大したことにより現れたと考えられる繰り返し地震(Hatakeyama et al., 2017, JGR)と類似のメカニズムによると考えられる.