[AHW33-01] 山地流域の水・土砂流出における空間スケールの影響
キーワード:空間スケール依存性、空間不均一性、水流出、土砂流出、数値解析モデル、空間分布情報
流域の水・土砂動態の観測結果を事態把握に活用し、予測精度を高めるためには、水・土砂流出における空間スケールの影響について理解することが重要である。そこで(1)これまでに得られてきた観測結果の分析から、空間スケール依存性と空間不均一性に焦点をあて、空間スケールと水土砂流出現象の関係についてどこまで明らかになっているか整理し、(2)いくつかの集中的な観測が行われた流域の事例から、空間スケール依存性と空間不均一性が生じるプロセスについて考察した。また(3)水・土砂流出現象の数値解析モデルにおける空間スケールの影響の取り扱い方に関する既往研究を分析した。
(1)流域面積に対して増加や減少などの一般的な関係が見いだされる物理量と,観測事例数が限られているなどの理由によって現時点では関係が不明瞭である物理量があった.また,これまでの調査・観測事例は空間スケール依存性か空間不均一性のどちらかに着目している場合が多かった.ピーク時の比流量は流域面積が大きくなるにつれ減少する、など空間スケール依存性が着目されてきた物理量は,流出現象を支配する機構が空間スケールによって変化すると考えられる.一方,基底流時比流量は小さい流域ではばらつきが大きいなど空間不均一性が調べられてきた物理量は,空間スケールによって流出現象を支配する機構が大きく変化しないため,相対的に場の条件の違いが流出に与える影響が大きかったと考えられる.
(2)滋賀県不動寺流域、桐生水文試験地、,神奈川県大洞沢流域,北海道鵡川・沙流川流域における研究から、水流出に関しては,岩盤経由の地下水の流出と表土層のみを経由した水の流出の寄与率の違いが源頭部の小流域の比流量のばらつきの要因であると考えられた.岩盤経由の地下水の一部は地表面の流域界を跨いで流出するが,流域面積が大きくなるに伴い相対的に流域界を越える水流の影響が小さくなり,岩盤経由の地下水寄与率が異なる特徴を有する流域の影響が混在することで平準化され,水流出量の空間不均一性は集水面積が大きくなるに伴い小さくなると考えられた.また,土砂流出は流域面積が大きくなるに従い異なる特徴を有する流域の影響が平準化されるのみならず,土砂貯留空間の増大および流域全体に占める生産域の減少により比流出土砂量の減少が生じる一方,過去の土砂生産履歴の影響や土砂生産源の偏在による比流出土砂量の増加が生じる場合もあることが明らかになった.
(3)代表的な数値解析モデルを利用した研究における,(a)最小の空間スケールとその決定方法,(b)入力データとして利用する空間分布情報,(c)支配方程式の空間スケール依存性の3点を整理し分析した。その結果 (a)の最小空間スケールは,利用する標高データの最小の空間スケールに依存すること,(b)の利用する空間分布情報は標高・土地利用・植生データが多く,その他は実測に基づくデータではないこと,(c)の支配方程式は対象とする斜面や河道などの「場」に依存し,空間スケールに応じて明示的に支配方程式が変化するモデルはないことがわかった。次に,空間スケールの影響の取り扱い方自体を検討した既往研究を調べた.その結果,水流出モデルに関しては集中化できる面積(基準面積)や入力する空間分布情報の相対的重要性に関する知見が集積されつつあるが,土砂流出モデルについては同様の研究報告はなかった.
以上より、山地流域では水や土砂の流出量の空間分布の実態や、プロセスは観測研究から一定程度明らかにされてきている部分があるが、数値予測モデルには、水・土砂の流出量の空間不均一性を生じさせている場の条件及び流出プロセスの空間分布に関する知見や情報が十分に考慮されていないことが分かった。
(1)流域面積に対して増加や減少などの一般的な関係が見いだされる物理量と,観測事例数が限られているなどの理由によって現時点では関係が不明瞭である物理量があった.また,これまでの調査・観測事例は空間スケール依存性か空間不均一性のどちらかに着目している場合が多かった.ピーク時の比流量は流域面積が大きくなるにつれ減少する、など空間スケール依存性が着目されてきた物理量は,流出現象を支配する機構が空間スケールによって変化すると考えられる.一方,基底流時比流量は小さい流域ではばらつきが大きいなど空間不均一性が調べられてきた物理量は,空間スケールによって流出現象を支配する機構が大きく変化しないため,相対的に場の条件の違いが流出に与える影響が大きかったと考えられる.
(2)滋賀県不動寺流域、桐生水文試験地、,神奈川県大洞沢流域,北海道鵡川・沙流川流域における研究から、水流出に関しては,岩盤経由の地下水の流出と表土層のみを経由した水の流出の寄与率の違いが源頭部の小流域の比流量のばらつきの要因であると考えられた.岩盤経由の地下水の一部は地表面の流域界を跨いで流出するが,流域面積が大きくなるに伴い相対的に流域界を越える水流の影響が小さくなり,岩盤経由の地下水寄与率が異なる特徴を有する流域の影響が混在することで平準化され,水流出量の空間不均一性は集水面積が大きくなるに伴い小さくなると考えられた.また,土砂流出は流域面積が大きくなるに従い異なる特徴を有する流域の影響が平準化されるのみならず,土砂貯留空間の増大および流域全体に占める生産域の減少により比流出土砂量の減少が生じる一方,過去の土砂生産履歴の影響や土砂生産源の偏在による比流出土砂量の増加が生じる場合もあることが明らかになった.
(3)代表的な数値解析モデルを利用した研究における,(a)最小の空間スケールとその決定方法,(b)入力データとして利用する空間分布情報,(c)支配方程式の空間スケール依存性の3点を整理し分析した。その結果 (a)の最小空間スケールは,利用する標高データの最小の空間スケールに依存すること,(b)の利用する空間分布情報は標高・土地利用・植生データが多く,その他は実測に基づくデータではないこと,(c)の支配方程式は対象とする斜面や河道などの「場」に依存し,空間スケールに応じて明示的に支配方程式が変化するモデルはないことがわかった。次に,空間スケールの影響の取り扱い方自体を検討した既往研究を調べた.その結果,水流出モデルに関しては集中化できる面積(基準面積)や入力する空間分布情報の相対的重要性に関する知見が集積されつつあるが,土砂流出モデルについては同様の研究報告はなかった.
以上より、山地流域では水や土砂の流出量の空間分布の実態や、プロセスは観測研究から一定程度明らかにされてきている部分があるが、数値予測モデルには、水・土砂の流出量の空間不均一性を生じさせている場の条件及び流出プロセスの空間分布に関する知見や情報が十分に考慮されていないことが分かった。