JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 G (教育・アウトリーチ) » 教育・アウトリーチ

[G-02] 災害を乗り越えるための「総合的防災教育」

コンビーナ:中井 仁(小淵沢総合研究施設)、小森 次郎(帝京平成大学)、林 信太郎(秋田大学大学院教育学研究科)

[G02-04] すばやい判断と知恵で災害に対処する教員を育てるー秋田大学の防災教育科目「自然災害と防災教育」ー

*林 信太郎1 (1.秋田大学大学院教育学研究科)

キーワード:防災教育、教員養成、自然災害

1)「自然災害と防災教育」の概要

秋田大学教育文化学部の防災教育科目「自然災害と防災教育」は学校教育課程の学生を対象とした選択必修科目であり2015年度から開設されている。受講生は25名前後で,ほぼ全員が教員志望である。2単位,15回授業の大部分は講演者が担当している。今回の講演では,「自然災害と防災教育」の内容について述べ,それをどのような意図から行なっているのか解説する。



2)「自然災害と防災教育」で養成する教員像

「自然災害と防災教育」では,自然災害の基礎的知識を学ぶとともに,災害に対応する能力,防災教育・対応を企画する能力も育成する。このためには,すばやく主体的な判断力,学校の災害環境の理解,災害への対応力および防災教育の構想力をつけさせる必要がある。



3)「自然災害と防災教育」の授業形態

全15回の授業のほとんどの回は,ショートレクチャーとグループワークの組み合わせで行われる。通常は30ー40分のショートレクチャーで基本的な知識について(高速で)解説し,その後グループワークに移行する。

ショートレクチャーは,地震,津波,噴火,土砂,気象(ゲストティーチャー)の各災害について行い,災害要因,災害の両者について解説した。

グループワークでは探究型の課題を出し,グループで話し合った後,全体で発表しまとめを行なった。また,授業の総まとめとしてプレゼン「学校教育の防災」をグループで行わせる。また,最終試験は「主体的な判断」ができるかどうかを問う問題としている。



3)緊急事の対応力を養成する

緊急時の対応力を養成するためには,a)災害要因に関する知識,b)災害に関する知識,c)素早い判断力,d)主体的な判断力の4つが必須である。

a)災害要因に関する知識は,ハザードマップの読み取り能力と関連する。想定と異なる大きさの災害要因が発生した場合,ハザードエリアがどのように変化するか理解する力は,災害要因について理解することで得られる。例えば,活断層の規模で地震のハザードエリアは大きく変化する。「自然災害と防災教育」では主にショートレクチャーの形で災害要因について授業を行う。b)災害時に何が起こるか理解していないと,災害への対処の際,混乱する可能性が高い。例えば,人口密集地の直下で地震が発生した場合,倒壊家屋の発生,倒壊家屋への閉じ込め,道路の通行不能,複数の火事の発生,渋滞,多数の死者・負傷者の発生,学校への避難者の殺到などが想定される。それらを知った上で,児童生徒(プラスして自分や自分の家族)に何が起こるかリアルに想像しないと,防災計画を立てることは難しい。「自然災害と防災教育」では,学生自身の調査活動を通じて,災害時に何が起こるか理解させるようにしている。c)緊急時には即座に行動に移す素早い判断が必要である。「自然災害と防災教育」では,時間を区切ったグループワークで素早い対応を行う体験をさせている。例えば,津波碑をつくるグループワークは,津波碑のアイデアを考えてから,その絵を黒板に描くまで10分しか与えない。d)災害時にどのような状況になるか,全ての場合は予想できない。多くの場合,その時々の状況に自分の知恵と知識で主体的に対処せざるを得ない。「自然災害と防災教育」では,主体的な判断力を養うためにグループワークを多用している。



4)災害発生前の対応力の養成

災害に備えるためには,a)学校の置かれた災害環境を理解し,b)防災教育を実施し,c)ハザードマップを読み取り防災計画を立てる必要がある。

a)学校の災害環境を理解することができるように,国土地理院の国土地理院の様々な地形データや災害情報を利用する演習を行う。多くの過去の自然災害は土地の形にその痕跡を残している。b)防災教育を計画するためには,防災教育の実施例が参考になる。「自然災害と防災教育」では,様々な実例を収集し,最終プレゼンで発表させている。c)大川小学校の仙台高等裁判所による二審判決では,「児童生徒の安全を確保するという教師としての立場から,ハザードマップの信頼性等について批判的に検討することが社会的に要請されている」という趣旨のことが判決文に書かれている。このレベルに到達させることは,2単位の授業では不可能である。「大学等と連携して」ハザードマップ の信頼性について批判的に検討するよう解説している。