JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 G (教育・アウトリーチ) » 教育・アウトリーチ

[G-03] 小・中・高等学校,大学の地球惑星科学教育

コンビーナ:畠山 正恒(聖光学院中学高等学校)、丹羽 淑博(東京大学大学院教育学研究科附属海洋教育センター)

[G03-07] 初学者に「露頭との対話」を促す野外観察実習―Schönの省察的実践論にもとづく考察―

*久森 洸希1山崎 博史2吉冨 健一2 (1.広島大学大学院教育学研究科、2.広島大学)

キーワード:野外観察実習、地層観察の視点、教員志望学生、省察的実践

地学領域での野外観察の重要性が継続的に語られているにも関わらず,学校現場における野外観察活動の実施率は低い状況が続いている1).こうした要因のひとつに,「野外観察経験の不足」や「野外での指導法が分からない」などの理科教員の専門性に関する課題が指摘されている1).すなわち,学校現場で野外観察を実施するためには,理科教員が自ら地質教材を開発し,活用するための基本的な地層や岩石の観察視点や技能を有していることが必要と言えるだろう.

筆者らが従来,理科教員志望の学生を対象に実施してきた地層観察に主眼をおいた野外観察実習は,「解説型」や「指示型」2)に相当し,指導者の解説による一方的な知識伝達や指示にもとづく作業が中心であった.地質の専門家育成のための研修のように,こうした野外観察実習を繰り返し,あるいは集中的に経験する機会が保証されれば,地層野外観察に関する知識や技能の修得に一定の効果が期待される(例えば,日本地質学会の地質調査研修3).しかし教職課程における一実習としては,課題も指摘される.例えば,学習者が野外観察実習を通して何を学んだかが学習者自身および指導者にも見えにくく,その実習で得た地層観察の視点を他の地層観察の場面で活用できる汎用的な視点として獲得できたかについての評価が困難な点などが挙げられる.

そこで,野外での観察経験の少ない学習者が効果的に地層観察の視点を獲得できること,また学習者の変容を学習者自身および指導者が認識できることを目指して,教育学的知見にもとづいた野外観察実習プログラムを考案し,実践を行った.

改善した野外観察実習の要点は以下の3つにまとめられる.
①類似した岩相を異なる露頭で複数回観察できるように,3つの露頭で行う4回の観察活動を設定した.
②ある露頭において,地質の専門家が提示した模式的な柱状図と実際の地層を比較する活動を設定した.
③②の活動の前後に同一露頭で作成した2枚の柱状図を野外での活動後に比較し,学習者自身が野外観察実習前後の記載内容の変化を見いだす活動を設定した.

本発表では,野外観察実習を通して学習者が地層観察の視点を獲得した過程をSchön4)の省察的実践論を援用しながら考察することで,実施した野外観察実習の有用性について検討したので報告する.

謝辞 本研究はJSPS科研費17H00820,19K027085,19K03144の助成を受けて行われた.

参考・引用文献
1)瀧本家康・佐藤鋭一(2019):中学校における地学分野の野外観察実施の現状と教員の意識–神戸市を事例として–.地学教育,71,83-96.
2)濱中正男(2001):地質の野外学習を通して自然環境を学ぶ修学旅行の指導法.地学教育,54,85-91.
3)http://www.geosociety.jp/engineer/content0021.html
4)Schön, D. A.(1983):The reflective Practitioner: How Professionals Think in Action. 専門家の知恵―反省的実践家は行為しながら考える(佐藤学・秋田喜代美 訳,2001),ゆみる出版,東京,229p.