JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG30] 考古科学:地球科学と考古学

コンビーナ:下岡 順直(立正大学地球環境科学部環境システム学科)、畠山 唯達(岡山理科大学情報処理センター)、箱崎 真隆(国立歴史民俗博物館)

[HCG30-P01] ファジズ探索の意義と考古科学との関係について

*大石 哲1リチェリ ヴァフタン2 (1.神戸大学都市安全研究センター、2.イヴァネ・ジャヴァヒシヴィリ・トビリシ国立大学)

キーワード:ファジズ、古代遺跡、探索

ファジズ(Phasis)とは,紀元前2000年以降にギリシャあたりに住み始めたイオニア人によるColchis帝国(Miletus)によって建設されたCaucasus地域の90以上もある植民地の1つであり,一般的には現在のジョージア国Potiにあるとされているが,実際には確認されておらず,BRUN(1880)をはじめとするいくつかの研究機関によって議論がなされている.GAMKRELIDZE(2012)では12の候補地を列挙している.

Phasisの存在を確かめ,そこを発掘することにより紀元前400年ぐらいの当地の文化,交流に対する理解が進むことが期待されている.そのことは,私たちの現代文明に対する道のりの一つをひもとくことになる.

ピートの存在,地震,古代文献の記述などから考えると,Phasisの位置の南端はSupsa River,西端は現在の黒海沿岸,北端はRioni River,東端はSagvichioを通る子午線にあると考えられ,さらにSupsa Riverと黒海沿岸の交点,Rioni Riverと黒海沿岸の交点,Sagvichioを通る子午線とPichori Riverの交点の3交点を結ぶ三角形内にあると考えられる.その三角形の大きさは約150km2(山手線内の面積の2倍程度)である.

古代文献には,Phasisは黒海,河,湖に挟まれた湿地に直径70mの中心島とそれより小さな属島からなる湿原上の都市であったという記述がある.それから考えると300m×300m程度(候補地全体の0.06%)ぐらいであると想定できる.以上より,以下の作業仮説を立てる.黒海は自然の気候変動の影響で海面が変わっているので,紀元前400年ぐらいの黒海沿岸を特定する(海洋学).河川の蛇行は今とは異なっていると考えられるので,降雨量データなどから蛇行の範囲を限定する(河川工学).その他の場所での掘削経験によると紀元前5〜4世紀の出土品は,現在の黒海の水面より上にあるので,Phasisは現在の地表面下の約2m〜1mにある.したがって,円形の島が湿地上にあるとして,そこに河川堆積物が覆った場合に堆積物表面の形状がどのようになるのかを調べる(流体力学).その上で,人工衛星だいち2号(ALOS-2)の合成開口レーダー(SAR)画像から数値標高モデル(DEM)を作成し,海洋学・河川工学的視点から考えられる候補地あたりを重点に,流体力学的な地形を判読する(AI+画像処理)
この取り組みはユーラシア世界に銅,鉄,文字といった文化が伝搬していった様子を知ることができる人類史上貴重なPhasisに関連する研究であり,人類社会に貢献するため、 普遍的価値を有する「知」を創造することに繋がる.文系・理系と言った既存の枠組みを超える新たな学術領域であることは明らかである