JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG30] 考古科学:地球科学と考古学

コンビーナ:下岡 順直(立正大学地球環境科学部環境システム学科)、畠山 唯達(岡山理科大学情報処理センター)、箱崎 真隆(国立歴史民俗博物館)

[HCG30-P02] 縄文土器の胎土をプロキシとした古環境変動イベントの編年の試み

*梅田 浩司1柴 正敏1近藤 美左紀1関根 達人2五十嵐 広大3竹内 瑞貴3 (1.弘前大学大学院理工学研究科、2.弘前大学人文社会科学部、3.弘前大学理工学部)

キーワード:縄文土器、古環境変動、編年

これまでの考古編年では遺跡から出土した土器の型式とその層位に基づき相対年代を決定してきたが,最近ではAMS14C年代測定と高精度の暦年較正により土器形式から絶対年代を議論できるようになった。さらに,縄文土器に含まれる様々な物質をプロキシ(古環境復元指標)として解析できれば,当時の気候・環境や自然災害を精度良く復元することが可能となる。本研究では,青森県の八戸市,三沢市の遺跡から出土した縄文早期~弥生土器および土師器について,胎土分析(鉱物組成・形態記載,テフラの同定)を行なうとともに,約10000年前~9世紀前半までの環境変動イベントの高精度編年を試みている。このうち,十和田火山噴火エピソードCおよび上北地域沿岸の津波イベントの編年について検討を行なったので,これについて報告する。

胎土分析は土器薄片を作成し,偏光顕微鏡を用いて鉱物・火山ガラスの観察を行なった後,火山ガラスが含まれる試料については,主成分化学組成からHarker図を用いて既知のテフラとの対比を行った。今回,縄文前期前葉に製作された表舘式,長七谷地Ⅲ群,早稲田6類(較正暦年代:6635~6415年前),中葉の円筒下層a式(較正暦年代:6020~5895年前),同b1式,同b2式,後葉の同c式,同d1式,同d2式の胎土分析を行なった。その結果,前期前葉の土器には,十和田八戸(To-H)テフラ,虹貝凝灰岩,剣吉凝灰岩に対比できる火山ガラスが含まれていた。一方,中葉および後葉の土器にはTo-Hのほか,十和田中掫(To-Cu)テフラ,十和田南部(To-Nb)テフラに対比できる火山ガラスが含まれている。これらのことから,十和田火山噴火エピソードCの降下軽石であるTo-Cuの降灰は,縄文前期前葉~前期中葉の時期と考えられる。また,青森市の大矢沢野田遺跡では,円筒下層a式土器がTo-Cuの直上から出土したことが報告されていることから(福田,1986),降灰は円筒下層a式の直前(約6.0ka)と判断できる。

噴火エピソードCの噴火年代については,軽石層直下の土壌から較正暦年代として,約6.2kaが採用されている(Inoue et al.,2011)。しかしながら,最近になって,水月湖の年縞堆積物からTo-Cuが検出され,5986~5899年前であることが明らかになった(McLean et al., 2018)。以上のことから,縄文土器型式を利用することにより従来より高い精度で噴火年代を決定できることが明らかになった。また,To-Cu降灰年代以降,八戸市では低位段丘に造られた新井田古館遺跡からの土器の出土がなくなり,丘陵地の一王寺遺跡からの出土が始まっている。このことは,噴火エピソードCに伴うラハールの頻発によって,より高台に居住地が変化したことを示唆する。

また,三沢市の猫又(2)遺跡から出土した縄文中期後葉の大木10式併行(較正暦年代:4815~4510年前),縄文後期初頭の牛ヶ沢式,弥栄平式,称名寺式(較正暦年代:4520~4220年前)の胎土分析の結果,大木10式併行には,十和田八戸(To-H)テフラに対比される火山ガラスが含まれるのに対して,牛ヶ沢式,弥栄平式,称名寺式にはTo-Hは認められず,十和田中掫(To-Cu)テフラ,十和田南部(To-Nb)テフラに対比できる火山ガラスが出現する。また,土器に含まれる火山ガラス以外の砕屑粒子は,前者は細粒(~0.1mm)で斜長石,輝石,岩片が多く含まれるが,後者は粗粒(~0.4mm)で円磨された石英や岩片が少量含まれることを特徴とする。以上のことから,猫又(2)遺跡では,縄文中期後葉から後期初頭にかけて土器材料の原産地が変わったことを意味する。

ところで,谷川ほか(2014)は猫又(2)遺跡が載る低位段丘および沖積低地においてイベント堆積物の調査を行なった結果,海岸線から内陸に約1.7kmの範囲の標高6.5~9.0mに層厚が最大23cmの津波堆積物を識別している。また,その上位と下位のシルト層に含まれる植物片から4800~2900 cal BPといった堆積年代を得ている。なお,遺跡周辺の十和田八戸火砕流堆積物は,この津波堆積物に覆われていること,縄文後期初頭の土器には海浜砂と考えられる粗粒の円磨された石英が含まれることなどから,津波の影響によって土器材料の原産地が変わった可能性が示唆される。以上のことから,縄文土器形式を利用することにより,津波イベントの発生年代は4500年前後まで絞られる。なお,本研究を進めるにあたっては,JSPS 科研費JP17K18507「火山ガラス分析による新たな土器研究法の開拓」(代表:関根達人)を使用した。