JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG34] 人間の社会活動と地球惑星科学

コンビーナ:天野 一男(東京大学空間情報科学研究センター)、小口 高(東京大学空間情報科学研究センター)、伊藤 昌毅(東京大学生産技術研究所)、山本 佳世子(国立大学法人 電気通信大学)

[HCG34-P02] 茨城県北ジオパーク構想における風船爆弾ツアー

*天野 一男1,2茨城県北ジオパーク構想 ジオネット北茨城 (1.東京大学空間情報科学研究センター、2.天野地質研究室)

キーワード:ジオパーク、風船爆弾、ダークツーリズム

茨城県北ジオパーク構想では,2011年の日本ジオパークネットワークへの認定以来今日まで,五浦海岸ジオサイトにおいて風船爆弾発射基地をみどころとしたツアーを行ってきた.戦争遺産をツアーの対象としたことで,他に例をみないユニークなツアーとなった.戦争の負の遺産を材料としていることから,当初,ジオパークにおけるツアーとしては不適であるとの批判もあった.しかし,今日,戦争遺産を巡る観光として「ダークツーリズム」が注目されてきていることを考えると,風船爆弾ツアーは時代を先取りしていたものとも考えられる.本講演では,実際に行われてきた風船爆弾ツアーの実際を紹介するとともに,ジオパークへのダークツーリズム導入の意義について考えたい.

風船爆弾は,日本軍によって太平洋戦争末期に,ジェット気流を利用してアメリカ本土を直接攻撃する作戦として考えられた.1944年11月から1945年4月までに,9300発が放球され, その内少なくとも1000発が北米大陸に到達したと推定されている.当時,太平洋岸の茨城県大津付近,福島県勿来付近,千葉県一宮海岸に発射基地の基地の42個の発射台から放球されたが,現存する発射台は五浦海岸ジオサイトの大津の1台だけである.

 風船爆弾ツアーでは,唯一残っている発射台を訪れ,ここが発射基地に選定された自然条件について,周辺の地形などを観察しながら考察するとともに,風船爆弾の模型を使って原理を説明もする.同時に基地設置にあたって地域が受けた社会的な影響なども紹介している.地質学的な観点からは,風船爆弾に搭載されたおもりに使われた海岸の砂について紹介する.航行中に高度を調整するためものであったが,アメリカ軍は風船爆弾の発射場所を特定するために,この砂の地質学的な分析を行った.かならずしもピンポイントで発射場所の特定はできなかったが,東日本の太平洋沿岸という大まかな推定はされていた.地質学が戦争に利用された一つの例である.風船爆弾発射台は戦争の負の遺産であるが,それを見学しながら戦争と学術研究との関係について考察し,世界の平和に資することは重要である.

ダークツーリズムは,20世紀末に提唱された新しい観光の概念であり,戦争や災害をはじめとする悲劇の記憶を巡る旅と定義される.近年,日本のジオパークでは自然災害の被害地を巡り自然災害について学ぶツアーが注目されてきている.しかし,戦争の記憶は従来の感覚では観光に取り入れがたいものであり,ジオパークでも積極的に取り入れることはなされてこなかった.私達は,世界的に注目されつつあるダークツーリズムという新たな観光の概念をジオパークに取り入れ,ジオパークの可能性を広げたいと考えている.

ジオネット北茨城メンバー:掛札周也・小林昇・松本健一郎・村田和華子・中居裕雄・滑川敏行・根本正義・沼田章・小沢紘一郎・関辰洋・鈴木誠一・和田恭幸