JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG34] 人間の社会活動と地球惑星科学

コンビーナ:天野 一男(東京大学空間情報科学研究センター)、小口 高(東京大学空間情報科学研究センター)、伊藤 昌毅(東京大学生産技術研究所)、山本 佳世子(国立大学法人 電気通信大学)

[HCG34-P03] 花崗岩の帯磁率を利用した石材の産地同定法と、そこからわかる石材流通の変遷

*先山 徹1 (1.NPO法人地球年代学ネットワーク 地球史研究所)

キーワード:花崗岩、歴史的石造物、帯磁率、花崗岩石材

日本列島では中世から近世にかけて多くの石造物が作られ、その中には広域的に流通した石材が知られている。陸上交通が発達していない19世紀以前、瀬戸内海地域には多数の石材産地が知られ、船運によって各地に出荷されたことが知られている。このような石造物の流通の歴史を知ることは当時の交通、権力者の勢力、石材産地の盛衰など、その時々の社会の情勢を知ることにつながる。そのためには石造物の石材と産地の岩石を比較し、正確な産地同定をすることが必須である。
 しかしながら、歴史的建造物に使用された石材の研究は非破壊ですることが原則であり、その産地同定は加工品の形態や熟練者による見立てによるものが主体となっている。そこで筆者は岩石の帯磁率に注目し、それと鉱物組成などと合わせて客観的に判断するための研究を進めてきた。本報告では瀬戸内海地域の花崗岩質石材を対象に、その帯磁率と有色鉱物量比をもとに石材産地同定の可能性を示し、それを適用することで明らかになってきた中~近世の花崗岩石材の流通について述べる。
 西南日本内帯の白亜紀~古第三紀花崗岩類は、磁鉄鉱系花崗岩を主とする山陰帯とチタン鉄鉱系花崗岩を主とする山陽・領家帯に分けられ、この両者は帯磁率の違いで明確に分けられることが知られている(Ishihara, 1978)。さらに山陽・領家帯の花崗岩類はチタン鉄鉱系に属するが、磁鉄鉱が全く含まれていないわけではなく、岩体によって帯磁率は異なる(先山,2005)。そこで瀬戸内海地域の古くから石材産地として知られている花崗岩帯の帯磁率を測定し比較した結果、帯磁率の大きさは範囲幅があるものの、岩体毎にある程度のまとまりを示すことが明らかになった先山(2013)。
 帯磁率の違いは磁鉄鉱の量に依存するが、その量は花崗岩マグマ固結時の酸化還元状態を反映する。一方、花崗岩の化学組成の違いを反映するものとして有色鉱物の量(色指数)がある。ここでは非破壊で比較するため、岩石表面の写真撮影を行い、画像上で有色鉱物のモード組成を測定することとした。その結果を縦軸に帯磁率、横軸に色指数をとった図で示すと、図1に見られるように、岩体毎にまとまった範囲に集中し、これによってある程度の石材産地区分が可能であることがわかる。
 実際の石材産地同定では、これらの岩石学的情報に加えて歴史的情報や石造物に刻まれた文字情報、採石場の地質学的背景などを考慮し、総合的に判断される。その結果、現時点で明らかになった流通の変遷は以下のようなことである。

(1)中世(14世紀~16世紀)の広域流通石材としては五輪塔・宝篋印塔・石塔など権力者の墓碑に関わるものが主体であった。その石材の主体は六甲山地の花崗岩で、特に西日本各地に流通した。中でも日本海側の島根県益田市や高知県土佐清水市にはその集中域が見られる。そのころの石材は土石流などで運ばれた岩塊を使用することが一般的であった。六甲山地の花崗岩が多く使われた背景には、当時頻繁に発生した土石流によって海岸付近に多くの岩塊が運ばれていたことが考えられる。
(2)1600年代初頭の徳川による大坂城の築城に伴い、瀬戸内各地に多くの採石場が開かれるようになり、特に瀬戸内海島嶼部では露頭から大型の石材が切り取られるようになった。
(3)江戸時代以降(17世紀~19世紀)北前船の航路が開発され、各地の社寺に大量の狛犬・鳥居・石灯籠などが船主によって寄進されるようになった。それらの石材には瀬戸内各地の花崗岩が利用されているが、六甲山地のものは急速に減少している。
(4)19世紀後半になると、瀬戸内地域の中でも特に尾道地域のものが台頭し、日本海側の各地に流通した。


文献
Ishihara, S. (1977) The Magnetite-series and Ilmenite-series Granitic Rocks. Mining Geology, 27, 293-305.
先山 徹(2005)近畿地方西部~中国地方東部における白亜紀~古第三紀火成岩類の帯磁率-帯状配列の検討と歴史学への適用-.人と自然,15,9-28.
先山 徹(2013)花崗岩の識別と帯磁率による産地同定.御影石と中世の流通-石材識別と石造物の形態・分布-(市村高男編),高志書院,45-58.