JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG34] 人間の社会活動と地球惑星科学

コンビーナ:天野 一男(東京大学空間情報科学研究センター)、小口 高(東京大学空間情報科学研究センター)、伊藤 昌毅(東京大学生産技術研究所)、山本 佳世子(国立大学法人 電気通信大学)

[HCG34-P06] 災害弱者とハザードマップ

*金栗  聡1天野 一男2 (1.天野地質研究室、2.東京大学空間情報科学研究センター)

キーワード:災害弱者、ハザードマップ、心のバリアフリー

2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震では,死者・行方不明者が2万2000人以上に上り,死亡原因の約90%は津波によるものであった.65歳以上の死者は全体の6割を占め,障がい者の死亡率は住民全体の2倍に上った.東北地方太平洋沖地震において,多くの災害弱者が犠牲となった反省を踏まえて,国は各自治体に災害弱者の名簿(「避難行動要支援者名簿」)の作成を義務付け,更にこの名簿を基に「個別避難計画」をつくることを推奨している.しかし,住民の高齢化や責任の重さ等により支援者が不足し,「個別避難計画」の作成は進んでいないため,公助に頼ることはできない.

近年,災害弱者を災害から守る試みがなされるようになった.視覚障がい者にハザードマップの内容を理解してもらう試みが,各地で始まっている.NPO法人「日本災害救援ボランティアネットワーク」は,津波浸水域を盛り上げて示したマップに,障がい者が触るワークショップを開いて,南海トラフ巨大地震に伴う津波に対する備えを促している.広島県の「呉市視覚障害者協会」では,朗読ボランティアがハザードマップの内容をCDに収録し,障がい者らが自宅近くの避難所の位置や,土砂災害警戒区域の場所を確かめる勉強会を開いている.地震調査研究推進本部は,色覚障がい者でもわかりやすいように,配色を考慮した「全国地震動予測地図」を作成している.視覚障がい者は,移動が困難であり,こうした取り組みは,避難を諦めていた目の不自由な方々に希望を与えている.

2017年度に,NPO法人「兵庫障害者センター」が,県内の障がい者を対象にアンケート調査を実施したところ,視覚障がい者の半数近くが「ハザードマップを知らない」と回答しており,周知が進んでいない実態が浮き彫りになった.また,近年,集中豪雨に伴う河川の氾濫により,高齢者施設や病院が浸水する被害が多く発生しているが,これらの施設の中には,ハザードマップの浸水域に位置するものも少なくない.災害弱者が集まるこれらのような施設こそ,安全な場所に立地すべきだが,ハザードマップ上の安全な高台は,土地の値段が高く,高台移転は進んでいない.

こうした状況下で,災害弱者を災害から守るために必要なのは,避難訓練を積み重ねることである.災害時,施設に入っていない災害弱者にとって頼りになるのは,顔の見える近くの住民である.災害弱者と近隣住民とが,互いに協力し合って,自主的に避難訓練を行うことが大切である.そのためには,避難訓練の主催者は,積極的に,災害弱者に参加の声かけをしなければならない.避難訓練により,ハザードマップの周知も期待できる.高齢者施設等では,何十名から百名近くの高齢者を,施設外の安全な建物,あるいは,施設内の二階以上に,避難させなければならず,日頃の避難訓練が重要である.注意しなければならないのは,ハザードマップの想定を超える災害が起こり得ることである.避難場所は十分安全かどうか,判断しなければならない.

災害弱者を災害から守るのに最も必要なのは「心のバリアフリー」である.心のバリアフリーとは,バリアを感じている災害弱者の身になって考え,行動を起こすことである.