JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS08] 津波とその予測

コンビーナ:対馬 弘晃(気象庁気象研究所)、久保田 達矢(国立研究開発法人防災科学技術研究所)

[HDS08-15] 非線形長波方程式での連続的表現を用いた時間差分式の導出とその計算誤差の評価

*南 雅晃1山本 剛靖1 (1.気象庁気象研究所)

キーワード:津波数値計算、非線形長波方程式、有限差分法

我々は津波数値計算、特にその減衰過程の精度を上げるために、非線形長波方程式の差分式の改善に取り組んでいる。非線形長波方程式の差分式は、津波分野においては、(Imamura et al., 2006)の方法が広く使われている。非線形長波方程式による流体のシミュレーションは、河川工学などの工学分野や、海洋学や水文学など様々な分野で行われているが、いずれの分野においても概ね津波分野と同様の差分化手法を使用している。しかしながら、現在使われている手法では津波の減衰が弱いという弱点があり、その原因は未だ解明されていない。そこで、我々は減衰に大きく関わる、非線形長波方程式の摩擦項に注目し、(南, 2019, JpGU)において、重力項と摩擦項の位置差分の改善と、摩擦項の時間差分による改善によって、津波の減衰過程の精度が上がることを示した。さらに、その中で摩擦項の時間差分について、解析的に解くことによって、差分式が求められることを示した(fig.1)。この形を(Imamura et al., 2006)に倣い、本稿ではSimple-Implicit(摩擦項、時間差分)と呼称し、加えて、fig.2-2のこれまで津波数値計算において広く使われている手法をCombined-Implicitと呼称する。なお、fig.2-3がExplicitである。次に、我々は、(南,2019,第9回巨大津波研究集会)において、一様な流れ(水深一様、水位一様、流束一様)で、摩擦項以外の項が働かず、底面摩擦のみで全体の流れが徐々に弱まっていく過程について、①解析解②Simple-Implicit③Combined-Implicitの比較を行い、Simple-Implicitが、離散的であるにも関わらず解析解と一致することを示し,Combined-Implicitでは(Imamura et al., 2006)で報告されている数値振動(計算誤差)があることも併せて示した(fig.3)。
次に、これらの計算安定性についてであるが、local inertial equationにおいては、先行研究で既に評価されており(田中ほか,2017)、Simple-Implicitがより安定であることが示唆されている。
そこで本稿では、通常の非線形長波方程式でのSimple-Implicit及び、Combined-Implicitの誤差について様々な条件で評価を行った。また、その評価のために新たに津波計算コードを作成した。それは、1次元非線形長波方程式で、simple-Implicit及び、Combined-Implicitを同時に計算が可能で、仮想的な地形(スロープ状の地形や遠浅の地形を、それぞれ数百m~0.1m程度まで)と仮想的な初期波形を用い、遡上計算条件による誤差を排除するため、遡上計算は行わず、特性曲線による放射境界条件を用いた。
これらの手法の誤差を評価するためには、評価の基準となる値が必要であるが、非線形長波方程式では解析解は未だ見出されておらず、観測値と比較する場合、他の様々な誤差の影響でその評価が出来ない。そこで、時間差分がどのような形であれ、積分時間間隔(dt)を極限まで短くしていけば、それぞれの方法で同様の結果になることを利用して、評価対象の方法全てで、積分時間間隔(dt)を短くしていき、両方の手法の計算結果の差がある一定の基準を下回った場合、dtが十分短いと判断し、その時の波形を仮の真値とし、それよりも十分大きい通常津波計算で使われ得る範囲のdtでの計算結果と比較し、時間差分の誤差の評価を行った。なお、今回の事例では、dtを元のdtから1/128にしたものと比較している。
この比較において、移流項、重力項の時間離散化誤差があり、それらの誤差が摩擦項の時間離散化誤差よりも大きい場合が多く、Simple-ImplicitとCombined-Implicitの比較をすることが困難であった。そのため、元のdtと1/128にしたdtで、摩擦項を除いた計算も行い、それらの差を取ることによって、移流項、重力項の時間離散化誤差を推定した。それらをSimple-ImplicitとCombined-Implicitの計算の結果から引くことによって、Simple-ImplicitとCombined-Implicitの違いだけを抽出した。それらの結果がfig.4である。計算を行った全ての事例で、常にSimple-Implicitの誤差が小さいことが示された。
まとめとして、解析的に解いた場合、Simple-Implicitの形が得られ、且つ、Simple-Implicitは、Combined-Implicitよりも計算安定性に優れており、それ自身の離散化誤差も少ない。つまり防災のために行うリアルタイムシミュレーションなどでは、Simple-Implicitがより適した計算方法であることを本稿では示した。