JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-AG 応用地球科学

[M-AG44] 福島原発事故により放出された放射性核種の環境動態

コンビーナ:津旨 大輔(一般財団法人 電力中央研究所)、高橋 嘉夫(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、恩田 裕一(筑波大学アイソトープ環境動態研究センター)、北 和之(茨城大学理学部)

[MAG44-P01] 環境中Cs-137濃度の時間フラクショナルな拡散方程式によるモデル化の研究

★招待講演

*羽田野 祐子1末富 英一1岡田 往子2羽倉 尚人2内山 孝文2 (1.筑波大学大学院システム情報研究科、2.東京都市大学原子力研究所)

キーワード:拡散、非整数階微分、長期予測

福島事故後ほぼ10年が経過し, 環境中のセシウム濃度の計測結果が積み重ねられている。本研究は, セシウム濃度が長期において, どのように減衰するかに関する, Box model以外の手法を提案する。Box modelでは, 例えば湖沼水中セシウムの移行を考える場合, 各箱内部の放射性核種は媒体と一様に混合されるという仮定のもと, 2つあるいは3つの箱が連結した状態で物質移動が表されている( IAEA-TECDOC-1143, 2000)。移行係数kが定数の場合は必ず, 箱内の濃度の変化は指数関数exp(-kt)のように表され, 箱が複数, 直列に連結されている場合はそれらの和 A exp(-k1 t) + B exp(- k2 t) + ...となる。この式で実際にデータをフィットする場合、「運命論的である」との指摘が、様々な研究者からなされてきた。この指数関数の和はt=0のときA+B+...となり、この値はその場所に降り積もった総量を意味する。運命論的という意味は、移行速度 k1 (速いプロセスとする)で減衰するセシウムは全体(=A+B+...)のうちのAだけの割合であり, 移行速度 k2 (遅いプロセスとする)で減衰するセシウムは全体のBだけの割合、と運命づけられており、セシウム全量のうち所定の割合は、速い(または遅い)プロセスへと、最初から割り当てられていることに相当するのではないかという意見である。特に計測後, 数年を経てから2つ目の指数関数が現れてくる場合があり, 最初の予測値から実測値がずれていくケースが見られるため, 本研究はそのような点を改善するモデル化を目指している。そこで本研究では, 非整数階の拡散方程式を使うことを提案する。以下にその理由を説明する。この方程式の基本解は, Mittag-Leffler関数と呼ばれるもので, 環境中セシウム濃度を定点観測したときにしばしば見られる性質, つまり事故直後は(時間の)指数関数で素早く減衰し, 数年後には時間tのべき乗でゆっくりした減衰へと変わるという性質を持っている。そのため、セシウム濃度の観測値のフィットに使える可能性がある。本研究でのモデル化にはCaputoではなくRiemann-Liouvilleの非整数階微分を用い, 時間についてα階の微分, 空間については通常の2階の微分を用いた拡散方程式を用いた。時間についてα階の微分をとる意味は, ある時刻にある場所にやってくるセシウムは, それ以前に存在した場所での濃度に応じて, やってくる量が決まる, という効果を取り入れることに相当している。本研究では, この方程式の基本解のみを用いて, 実際の大気および湖沼における計測値を再現することができた。2002年Bulgakovらはチェルノブイリ事故後のロシア・ブリヤンスク地方の湖おいてCs-137濃度の10年にわたる変化を, 補誤差関数の近似により exp(-λt)/√t とおいて再現できることを確かめたが, これは Mittag-Leffler関数のパラメータが1/2である場合に対応する式であることがわかった。非整数階微分は地熱発電への応用(A. Suzuki et al.)や多孔質中の汚染物質拡散(B. Berkowitz et al.)など豊富な研究例があり, 今回は環境中セシウム濃度への適用を行った。