JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS08] 古気候・古海洋変動

コンビーナ:岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、Benoit Thibodeau(University of Hong Kong)、山本 彬友(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、長谷川 精(高知大学理工学部)

[MIS08-06] 鹿児島県徳之島のトゥファに記録された過去200年間の気候条件

*村田 彬1加藤 大和1狩野 彰宏1 (1.東京大学理学系研究科 地球惑星科学専攻)

キーワード:トゥファ、気候条件、古気候

石灰岩地帯の河川で発達するトゥファは温帯〜亜熱帯の陸域気候の記録媒体として優れている。トゥファは年縞を発達させ数mm/年の速度で成長するため、高解像度での解析が可能である。河川環境で発達するトゥファは流路の変化により20〜30年を超えて連続して堆積せず長期的記録の復元には問題があった。これに対し、滝の下で発達するcascade tufaでは石筍のようにより長い連続的記録が期待される(Andrews, 2005)。鹿児島県徳之島の小原海岸では石灰岩の崖から流下する水により国内では珍しいcascade tufaが発達する。本研究ではこのcascade tufaから得られた厚さ49.2 cmのトゥファ試料を題材として、気候条件の復元を目指して研究を進めた。
 小原海岸のcascade tufaは凹凸のある成長面を持ち,明確に縞状組織が確認された部分の高解像度分析からは、2.35 mm/年の堆積速度が得られた。これにより厚さ49.2 cmの試料は209年間で堆積したと見積もられた。また、薄片で認定した夏季の緻密層を頼りにすると、堆積期間は187年と見積もられる。同位体分析の結果を他のトゥファと比較すると、徳之島の雨水のδ18Oが高いことを反映しδ18Oはやや高い値を、C4植物であるサトウキビの影響からδ13Cは明らかに高い値を示した。
 トゥファの約200年間の同位体記録からいくつかの知見が得られた。まず、1960年代から減少するδ13Cは化石燃料の消費によるSuess効果を記録している。また、小原海岸付近でのサトウキビ栽培は少なくとも1840年代から継続していたことが読み取れた。δ18Oは気温ではなく、降水量と相関することがわかり、気象記録の無い1840~70年は少雨期、1870〜90年は多雨期であったと考えられる。また、1960年代に形成された礫状部は海生動物骨格を含んでおり、1960年のチリ地震津波によるものと考えた。本研究では、従来のトゥファを用いた古気候解析が20年程度にとどまっているところ、cascade tufaを用いることで記録の長さを大幅に更新することができた。より適切な試料を見つけることで、記録の長さと解像度を向上することが可能だろう。

Andrews, J. E. (2005). Palaeoclimatic records from stable isotopes in riverine tufas: Synthesis and review. Earth-Science Reviews, 75(1-4), 85-104.