[MIS08-P20] 石筍の同位体記録から読み取る最終氷期の日本海表層水の淡水化
キーワード:石筍、冬季アジアモンスーン、最終氷期、日本海
一般に東アジアにおける石筍の酸素同位体比(δ18O)記録は暖かく湿潤な間氷期に低い値を、寒く乾燥した氷期に高い値をとることが知られている。本研究で扱った新潟県糸魚川市の洞窟から採取された石筍は最終氷期の記録を保持しており、同じ洞窟で採取された完新世の石筍記録と比較すると、通常とは異なり、最終氷期においてより低い値を示している。先行研究ではこの洞窟付近の気候は、日本海からの水蒸気を取り込んだ冬季モンスーンによって支配されていることが示されている (Sone et al., 2013)。そこで、氷期においてはより多くの水蒸気が、完新世よりも強化された冬季モンスーンによってもたらされたと解釈してしまうと、海水凖低下によって対馬暖流の流入が制限されたとする有孔虫記録と矛盾する。さらに、雨水の同位体記録から計算すると量的効果による同位体変化では説明しきれないことが示唆された。したがって、石筍のδ18O記録が低い値をとる原因として、水蒸気ソースである海水の同位体が異常に軽くなっていたことが考えられる。これは海水凖低下によって孤立した日本海に淡水が流入し、成層化に伴って表層の塩分とδ18Oが低下したとする有孔虫記録と整合的であり、本研究によって初めて陸域記録からこれが支持された。