JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS28] 歴史学×地球惑星科学

コンビーナ:加納 靖之(東京大学地震研究所)、磯部 洋明(京都市立芸術大学美術学部)、芳村 圭(東京大学生産技術研究所)、岩橋 清美(国文学研究資料館)

[MIS28-P04] 「災害碑」が抱える問題点と分類方法に関する考察

*大邑 潤三1 (1.東京大学地震研究所)

キーワード:災害、モニュメント、分類

近年,自然災害に関する石碑やモニュメントの研究が盛んに行われ,地域に残る碑などが次々に見出されている.国土地理院においても「自然災害伝承碑」が新たに地図記号となり,地理院地図を通じて情報提供が行われるようになった.これらの災害に関する石碑やモニュメントは,過去の災害を伝える装置としての役割が期待されている.
一方で全体を見渡して,何が該当するのか,性質や形式に基づいてどのように整理分類されるべきかといった議論が後回しになっているように思われる.国土地理院による「自然災害伝承碑」の定義は「過去に起きた自然災害の規模や被害の情報を伝える石碑やモニュメント」である.防災の視点から言えば,「過去の自然災害を伝える」という部分が重要であり,必ずしも石碑やモニュメントである必要はない.災害を生き残った樹木,断層の活動よる地表のズレを保存したものは,石碑やモニュメントではないが,同等に災害を伝承する機能を持っている.形に捉われすぎると本質を見失ってしまう可能性がある.
また該当物の性質を明らかにしておかなければ,適切な保存や伝承,防災への活用ができなくなるおそれがある.浸水位置などを示したものは安易に移動させてはならないし,慰霊や供養の性質を持つものは尊厳を持って扱わねばならない.こうした点からも適切な分類が行われる必要がある.
その他にも整理すべき問題は多々ある.復興や治水など主題が災害以外のものは災害を主題とするものと区分される必要がある.犠牲者の個人的な墓については「災害碑」として扱うことに慎重にならなければならない.災害遺構や遺物については,説明が書かれた碑や看板を災害モニュメントとして扱う主客転倒の事例もみられる.
本研究では,自然災害を伝承する機能を持つものを広く分析するために,碑や遺構などを含む上位概念の設定が必要であると考え,これを便宜的に「自然災害伝承物」と名付けた.その上で,地面に設置され容易に移動できないもののうち,文字を用いて過去の災害を記述する「文字系」と,文字を用いない「非文字系」に大別し,どういった形式のものがこれに属するか分類した.「非文字系」は一見しただけでは災害との関係性が明瞭ではないものがあり,中には災害との関係性が見出されていない,もしくは一般に認知されていない「潜在的非文字系」が存在している.これらは災害との関係の究明やそれに基づいた説明板の設置などがされない限り忘れ去られてゆく可能性が高い.
ここで示した整理方法はあくまで私案であり,諸課題の解決にも多くの研究者の議論が必要である.

付記:本研究は一般財団法人防災研究協会 若手研究者研究助成の一環として行われたものである.