JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-ZZ その他

[M-ZZ55] 文化地質学

コンビーナ:鈴木 寿志(大谷大学)、先山 徹(NPO法人地球年代学ネットワーク 地球史研究所)、高橋 直樹(千葉県立中央博物館)

[MZZ55-P04] 地域石材を文化地質学の文脈に活かす:大磯町の石材「シンドーサキの石」を例に

*田口 公則1 (1.神奈川県立生命の星・地球博物館)

キーワード:地域石材、地域資源、文化地質学、地域の文脈

その土地の石は、かつて人の生活において石材として多用され、身近な存在であった。石材名を持たず、地域の通称で呼ばれて利用された石も多いに違いない。このような地域の石材は、文化地質学の文脈を見いだす際に、有用な地域資源の要素となりやすいと考えられる。地域石材は、その地域の地形・地質環境、歴史環境、生活環境と関わる面を持つことが多いからである。地域の地学(地質)のみならず、広く自然環境、生活環境、文化・歴史環境、風景・景観に関わる地域資源が、地域の文脈を把握する要素となるであろう。
 本発表では、地域石材を軸とした文化地質の文脈の解釈例として、神奈川県大磯町の石材「シンドーサキの石」を紹介する。
 神奈川県大磯町の街中の古い石垣や石塀等に、「高麗石」と「シンドーサキの石」と呼ばれる地元石材2種の利用が見られる。その利用状況からともに明治期から昭和期にかけて利用された石材と見ている。高麗石の採石と利用については記録史料が多いものの、シンドーサキの石については、採石記録等の史料が少ない。シンドーサキの石の由来を求めるには、石そのものの観察と由来する地層の対照が有効な手立てとなる。地元、大磯海岸に分布する三浦層群大磯層の岩相がシンドーサキの石に相当することをふまえると、大磯の街中での利用が見えてきた。
 一方、地域石材の調査において石切場跡の確認も有用である。大磯海岸では2019年台風19号による海岸の砂礫流失から大磯層からなる岩盤が広く露出し、そこでは普段見ることが難しい石切場跡を確認した。多様な岩相の石材が切り出されていたことが明らかとなった。
 この採石の時期が明治期だと仮定すると、石切場の海抜高度は大正関東地震の隆起量を差し引く必要がある。たとえば、1.8 m 低くすると、石切場は潮間帯レベルでの海中となる。この立地は、切り出した石材の積み上げをふまえると、海水中で浮力を活用した可能性が見えてくる。
 以上の事柄を、文化地質学の地域文脈に落とし込み地域の地学と石材の関連づけを考えてみると、いくつかのキーワードが見えてくる。そのひとつは、大磯地域の地学的要素の鍵となる「隆起」である。大磯丘陵の地形と明治期の別荘開発や、岩礁海岸での海水浴場開設の事柄が関連する。また、大磯海岸の石切場の立地も、段丘面や海食台が発達する箇所であり、隆起と関連づけられる。
 このように、地域の地学的事物現象にあわせて、地域の歴史や人々の生活といった文化的事柄の関連づけによる地域の文脈を見つけることで、地学素材をより魅力的なものへと深化させることができる。文化地質学が内包する文理融合的な視座といえよう。