JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS10] 太陽系物質進化

コンビーナ:藤谷 渉(茨城大学 理学部)、松本 恵(東北大学大学院)、小澤 信(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、日比谷 由紀(国立研究開発法人海洋研究開発機構 海底資源センター )

[PPS10-09] アエンデ隕石Type B CAIの部分溶融のAl−Mg年代学

*川崎 教行1伊藤 正一2坂本 直哉1スティーブン サイモン3圦本 尚義1,4 (1.北海道大学、2.京都大学、3.ニューメキシコ大学、4.JAXA宇宙科学研究所)

隕石に含まれるCAI (Ca-Al-rich inclusion)は,太陽系最古の年代を示す岩石である[1]。近年二次イオン質量分析法により,CAIの高精度Al−Mg鉱物アイソクロンが取得され始め,個々のCAIそれぞれの初生26Al/27Al比が明らかになってきた[e.g. 2−4]。CVコンドライト中の,溶融とメルトからの結晶化により形成した火成CAI(compact Type AおよびType B CAI)と,ガスからの凝縮により形成したCAI(細粒CAIおよびfluffy Type A CAI)は,それぞれ同様に,約5.2 × 10−5から3.4 × 10−5にわたる初生26Al/27Al比の広がりを示す[4]。これは最初期太陽系におけるCAI形成プロセスが,約40万年以上起こり続けていたことを示唆する。しかし同時に,CAIの初生26Al/27Al比分布が,CAI形成領域における26Al/27Al比の不均一分布を示している可能性を否定できない。実際に,初期太陽系円盤の内側領域における26Al/27Al比の不均一分布が提唱されている[e.g. 5]。そのため本研究では,26Al/27Al比の均一性にかかわらず,初期太陽系のイベントの年代を高時間分解能で測定できる手法の一つとして,単一のCAIが経験した部分溶融プロセスにおいて,「溶け残った鉱物」と「溶融しメルトから結晶化した鉱物」それぞれのAl−Mg鉱物アイソクロンを取得した。部分溶融プロセスは,CAI内部に閉じたAl−Mg系のリセットプロセスであるため,CAI形成領域における26Al/27Al比の均一性にかかわらず,CAI形成プロセス間の年代差を直接求めることが可能だからである。CAI鉱物のAl−Mg局所同位体分析は,北海道大学の二次イオン質量分析計(Cameca ims-1280HR)を用いて行った。
本研究で用いた,Golfballと名付けられたアエンデ隕石のCAI[6−8]は,典型的なType B CAIと同じバルク化学組成をもつが,ファッサイトに富むマントルとメリライトに富むコア部から成る,通常のType B CAIとは異なる特殊な岩石組織をもつ。マントル部は,半自形のファッサイト(~1 mm)と,Type B1 CAIに見られるような,CAIリムから放射状に配向した短冊状のメリライト(~500 μm)から成る。コア部は主に,塊状のメリライト粒子(~20−100 μm)から成り,その大部分がポイキリティックに他形のファッサイト結晶に囲まれている。また,コアとマントル部を横切る短冊状のメリライトが見られる。CAI全域にわたり,ファッサイトとメリライトに囲まれた自形のスピネルが見られる。メリライトの大部分は,産状にかかわらずÅk3070の化学組成範囲を示す。一方で,コア部の塊状のメリライト結晶の中心部分において,Alに富む(Åk512)粒子が頻繁に見られる。Alに富む粒子の周りは,正累帯構造をもちオーバーグロースしたメリライト結晶(Åk1570)に囲まれている。
Alに富むメリライト粒子は,Golfball CAIのバルク化学組成をもつメルトや,そのコア部の化学組成をもつメルトのいずれからも晶出しないものであり[6, 9],後の部分溶融プロセスを生き残った,溶け残りであるといえる。Alに富むメリライト粒子と,リキダス鉱物であるスピネルのAl-Mg鉱物アイソクロンは,(4.41 ± 0.22) × 10−5の初生26Al/27Al比を示した。さらに,後の部分溶融プロセスでメルトから結晶化したと考えられる,他のメリライトの鉱物アイソクロンが示す初生26Al/27Al比は,(4.41 ± 0.20) × 10−5であった。両者の初生26Al/27Al比は,ほぼ同値である。本研究により,Golfball CAIは前駆物質形成後の短期間,おそらく数万年以内に,部分溶融プロセスを経験していたことが明らかとなった。

References: [1] Connelly et al. (2012) Science 338, 651−655. [2] MacPherson et al. (2012) EPSL 331−332, 43−54. [3] Kawasaki et al. (2019) EPSL 511, 25−35. [4] Kawasaki et al., under review. [5] Bollard et al. GCA 260, 62−83. [6] Simon and Grossman (2004) GCA 68, 4237−4248. [7] Simon et al. (2005) MaPS 40, 461−475. [8] Itoh et al. (2009) MaPS 40, Suppl., A116. [9] Beckett et al. (1999) 30th LPSC #1920.