JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG59] 地殻表層の変動・発達と地球年代学/熱年代学の応用

コンビーナ:長谷部 徳子(金沢大学環日本海域環境研究センター)、末岡 茂(日本原子力研究開発機構)、Frederic Herman(University of Lausanne)、田上 高広(京都大学大学院理学研究科)

[SCG59-03] 熱年代解析と流体包有物分析に基づいた和歌山県本宮地域のスラブ起源熱水活動の熱的特徴

*末岡 茂1菅野 瑞穂1川村 淳1丹羽 正和1岩野 英樹2檀原 徹2 (1.日本原子力研究開発機構、2.株式会社京都フィッション・トラック)

キーワード:熱年代学、流体包有物、スラブ起源水、本宮地域

プレート沈み込み帯では,スラブ上面からの脱水に起因する,非火山性の熱水活動が知られている(e.g., Ito et al., 1983, GCA; Jarrard, 2003, GGG; Hacker, 2008, GGG)。例えば日本列島においては,東北日本弧のいわき地域(Togo et al., 2014, EPS),西南日本弧の紀伊半島(Morikawa et al., 2016, GCA)や有馬地域(西村ほか,2006,温泉科学; Kusuda et al., 2014, EPS)などで,スラブ起源と考えられる湧水が報告されている。このようなスラブ起源水の存在は,内陸活断層地震や低周波微動等の地震活動への関与が指摘されているほか(Zhao et al., 1996, Science; Obara, 2002, Science),熱水鉱床の発達(Cox, 2005)や地熱資源の開発(安達ほか,2014,温泉科学),地下施設の安定性評価(産総研,2016)等の社会的な観点からも知見の蓄積が望まれる。

本研究では,紀伊半島本宮地域の熱水脈露頭3地点を事例対象に,熱年代学の手法と流体包有物解析により,過去の熱水活動の温度や継続時間等の制約を試みた。すなわち,過去の熱水活動で形成された石英脈中の流体包有物の均質化温度の測定により,熱水温度の推定を行った。加えて,石英脈周辺の母岩(四万十帯砂岩)を脈から0~20mの距離で採取し,熱年代学的解析を実施した。リセットされた年代値から熱水活動の時期を,年代の若返りの程度から熱水活動の継続時間を,年代の若返りと熱水脈からの距離の関係から熱影響の空間範囲をそれぞれ推定する目的である。熱年代学的手法は,アパタイトFT法(閉鎖温度Tc:90~120℃),ジルコン(U-Th)/He法(Tc:160~200℃),ジルコンFT法(Tc:約300℃),ジルコンU-Pb法(Tc:>900℃)の4つを適用した。

流体包有物解析の結果,初生包有物の均質化温度は140~210℃と推定された。一方,熱年代解析の結果,アパタイトFT年代は12~9Ma,ジルコン(U-Th)/He年代は24~9Ma,ジルコンFT年代は30~18Ma,ジルコンU-Pb年代は77~68Maとなった。いずれの熱年代計でも,石英脈からの距離に寄らず一様な年代値の分布が得られた。これらの解釈としては,以下の3通りのシナリオが考えられる:1)約10Maの熱水活動により,露頭全体のアパタイトFT年代がリセットされた,2)熱水活動は約10Maより古いが,熱水活動に伴う熱年代の異常は,その後の隆起・侵食によって上書きされた,3)熱水活動は約10Ma以降だが,到達温度が低いまたは継続時間が短かったため、アパタイトFT年代には影響を与えなかった。このうち1)の場合,幅10m以上の範囲にわたってアパタイトFT年代を完全にリセットする熱イベントが生じたのであれば,他の熱年代計でも熱水脈の近傍で年代の若返りが期待されるため,可能性は低いと考えられる。2)と3)は熱水脈の形成年代から判別が可能だが,石英脈は放射性元素に乏しく年代測定は困難であり,現状いずれが有力かは判断できない。

以下,2)と3)の場合の熱水活動の熱的特徴についてそれぞれ整理する。2)の場合,熱水活動の発生は,母岩の環境温度がアパタイトFT法の閉鎖温度より高温だった時代である。地温勾配を約30℃/km,平均地表温度を10~20℃程度とすると,熱水活動は地下2~3km以深で起こったと推定できる(約10Ma以降の平均侵食速度は0.2~0.3mm/yr程度)。また,熱水活動による温度の上昇量は,均質化温度と環境温度の差から、20~130℃以内と計算できる。熱水活動の時期,継続時間,熱影響の及んだ範囲等については不明である。一方3)の場合,熱水活動の時期と熱影響の及んだ範囲は不明だが,継続時間の上限の制約が可能である。すなわち,約150℃及び200℃でアパタイトFTが有意な短縮を受けない時間なので,アニーリング関数(例えば,Ketcham et al., 1999, Amer. Min.)を用いて,それぞれ数10年と1か月程度が上限と計算できる。深部流体起源の熱水活動の熱的特徴に係る更なる理解のためには,隆起・侵食速度が遅く,熱水活動の想定時期より有意に古い冷却年代を示す地域(例えば六甲地域;末岡ほか,2010,地学雑)での同様の検討が望まれる。

【謝辞】本報告は経済産業省資源エネルギー庁委託事業「平成30-31年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(地質環境長期安定性評価技術高度化開発)」の成果の一部である。