JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GD 測地学

[S-GD02] 測地学

コンビーナ:松尾 功二(国土交通省国土地理院)、横田 裕輔(東京大学生産技術研究所)、岡 大輔(地方独立行政法人北海道立総合研究機構環境・地質研究本部地質研究所 )

[SGD02-P08] 地球回転のコンプライアンスパラメーターの導出方法:流体核及び固体内核の影響

*原田 雄司1,2大久保 修平3,4 (1.澳門科技大学太空科学研究所月球与行星科学国家重点実験室、2.東京大学地震研究所海半球観測研究センター、3.西南交通大学地球科学与環境工程学院測絵遥感信息系、4.東京大学)

キーワード:地球回転、地球潮汐、地球内部

固体地球の非剛体性が地球回転や地球潮汐に及ぼす効果は核やマントルの力学的挙動を理解する上で重要である.典型的な一例として挙げられるのが地球の自転運動の微小な擾乱,特に章動に対する扁平な流体核による力学的共鳴の影響,即ち自由核章動の励起である.

地球の自転運動に与える流体核の影響は笹尾他による準解析的理論(通称SOS理論)に基づいて高い近似で予測可能である.SOS理論では球対称地球モデルに基づく準静的変形の計算手法(例えば竹内や斎藤の方法)を応用する事で流体核共鳴が地球回転や地球潮汐に及ぼす効果を比較的簡易に見積もる事が出来る.当該手法は実際の地球の章動の解析でも広く用いられている.

前述の理論は暫らく後にマシューズ他の一連の理論的研究によって流体核のみならず固体内核の影響をも組み込んだ理論(通称MHB理論)へと拡張された.MHB理論は国際天文学連合において現時点で採用されている歳差章動モデル(IAU2000モデル)の基礎を与える重要な理論である.

但しSOS理論やMHB理論を完成させた先行論文の中には数値計算の観点において若干ながら明瞭でない部分が存在する.地球回転のモデリングに関しては非常に詳細に解説されている一方で,それに伴う地球変形の数値計算に関しては,どの様に行なわれるべきか明らかであるとは言い難い.例えば先行論文自体の中で竹内や斎藤の方法が引用されているにも拘わらず,その定式化の所で実際に用いられている動径関数の定義は別の計算手法(アルターマンの方法)に従っている.加えてマントルの最下部や固体内核の表面における動径関数の境界条件は竹内や斎藤の方法を単純に適用しただけでは満足する事が出来ない.上で述べた様な定義の不統一や境界条件の説明不足は読者の混乱を招く可能性が有る.即ち理論自体の簡潔性とは裏腹に具体的な計算手法が必ずしも広く知られていないかも知れない.更に数値積分の際に参照される万有引力定数Gは数年毎に更新されているが,その値の微妙な変化が計算結果に与える影響も不明である.

上述された準解析的理論を改めて記載し直す事は有益と考えられる.地球回転の定式化と地球変形の定式化の関連性,特に動径関数の定義や数値積分における固液境界条件を明示的に再記述し,それに基づいて各種の係数を再計算する事は再現性の観点から必要である.加えて分野の裾野を広げる道標ともなり得る.分野の拡大は単に地球回転に留まらず,それ以外の固体天体の回転と内部構造の関連を知る事も比較惑星学的に興味深い所である.

以上を踏まえて本研究ではSOS理論やMHB理論の中に含まれる各種の重要な係数を斎藤の準静的変形の計算手法に基づいて準解析的に導出する方法を出来るだけ詳細に記述する.例えば力学的偏平率,動的潮汐ラブ数,コンプライアンスパラメーター,共鳴周期,増幅因子,等の見積もり方を示す.同時に先行研究で参照されたのと全く同じ地球内部構造を想定して実際に係数を算出する.中でも地球回転のリウヴィル方程式の中に現れるコンプライアンスパラメーターは地球変形のラブ数と並ぶ重要なパラメーター群であり,その強度を通じて流体核や固体内核の力学的挙動に伴う慣性能率の変動が地球回転に与える影響を表現している.コンプライアンスパラメーターの計算精度は力学的偏平率との積を取る事で相反定理に基づいて推定可能であり,それによってパラメーター群の精度が先行研究と同等か,それを上回る事も確認する.

数値計算の結果,先行研究で示されている各種の係数の大半を,ほぼ正確に再現する事が出来た.加えて本研究で得られた力学的偏平率とコンプライアンスパラメーターの積は極めて高い精度で相反定理を満たした.先ず流体核のみ考慮した計算結果は笹尾他の表中で記載されている計算結果と概ね一致した.次に固体内核の存在も加味した結果も同じく大半はマシューズ他で記載されている結果と一致した.一方で内核の挙動と関連するコンプライアンスパラメーターの一部に関しては,その他の係数と比べて大きな差が認められた.仮にマシューズ他の数値計算も同程度の精度を有するならば,その結果と本研究の結果が大きく異なるのは奇妙である.現時点では原因が不明であるが,その可能性の一つとして内核の中心付近の内部構造の与え方が本研究と先行研究で僅かに違うのかも知れない.何れにしても,そもそも内核に由来するコンプライアンスパラメーターは非常に微小であるから,その差は最終的に導かれる共鳴周期等の結果に対して殆んど影響しない.同じく万有引力定数Gの更新が各係数に及ぼす影響も,それ程には大きくない事が分かった.

本研究は澳門科学技術発展基金より科研資助項目007/2016/A1,043/2016/A2,119/2017/A3,及び187/2017/A3の助成を受けて実施されている.