JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GD 測地学

[S-GD02] 測地学

コンビーナ:松尾 功二(国土交通省国土地理院)、横田 裕輔(東京大学生産技術研究所)、岡 大輔(地方独立行政法人北海道立総合研究機構環境・地質研究本部地質研究所 )

[SGD02-P10] 潮位データ解析から得られた東北地震の余効地殻変動

*石川 慶1風間 卓仁1 (1.京都大学理学研究科)

キーワード:潮位、余効変動、東北地震、GNSS

はじめに
衛星測地技術の進展以前においては、日本沿岸の験潮所における潮位観測データが地殻変動解析に利用されてきた。例えば、加藤・津村(1979)は海洋変動等に伴う潮位変化を海域ごとに補正し、各験潮所における長期的な潮位変化(すなわち地殻上下変位)を推定した。一方、2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震においては、GNSSやInSARなどの衛星測地技術によって日本列島の地殻変動場が詳細に理解された(例えば、Ozawa et al., 2011; Kobayashi et al., 2011)。しかしながら、潮位観測データを用いた東北地震の地殻変動解析は現状十分には進められておらず、潮位データでも衛星測地データと同様に東北地震に伴う地殻変動が把握できるのか議論の余地がある。そこで我々は、日本沿岸の験潮所で観測された潮位データを解析し、東北地震に伴う地殻変動を抽出した。

千葉県勝浦における地震前後の長期潮位変化
我々はまず、千葉県の勝浦験潮場で取得された潮位データをダウンロードし、地震前(2003年1月1日~2011年3月11日)と地震後(2011年3月16日~2018年12月31日)の2期間に対してBAYTAP-G (Tamura et al., 1991)による潮汐解析を実施した。この際、験潮場近隣の気象庁観測点で得られた気圧データを用い、潮位の気圧応答量も求めた。その後、BAYTAP-GのTREND成分に最小二乗解析を適用し、各期間に対する潮位の直線成分と年周・半年周成分を決定した。その結果、潮位変化速度は地震前の約8年2ヶ月間で+0.4746 cm/year、地震後の約7年10カ月間で-0.7880 cm/yearと得られた(添付図の青線)。地震前の長期潮位変化はプレート運動および海水準変動の寄与を、地震後の長期潮位変化はそれらに加えて余効変動の寄与を反映していると考えられる。

勝浦周辺のGPS変動との比較
我々はまた、勝浦験潮場近傍の電子基準点(勝浦)のF3解をダウンロードし、地震前と地震後の上下座標成分に対して長期的な線形成分や年周・半年周成分の大きさを最小二乗法によって計算した。その結果、上下変位速度は地震前の約8年2ヶ月間で+0.2609 cm/year、地震後の7年10カ月間で+1.5543 cm/yearと得られた(添付図の橙線)。このうち、地震前の長期上下変位はプレート運動の寄与を、地震後の長期上下変位はプレート運動および余効変動の寄与を反映している。
ここで我々は、東北地震に伴う余効地殻変動の寄与のみを抽出するため、地震後の変動量から地震前の変動量を差し引いた。その結果、余効地殻変動の寄与は潮位変化で-1.2626 cm/year、上下変位で+1.2933 cm/yearと得られた。潮位測定のシステム上、両者は正負が異なっているものの、その絶対値は0.03 cm/year程度で一致している。このことは、勝浦の潮位データから地震後地殻変動を精度良く抽出 することができた、ということを意味している。

今後の予定
今後本研究は、東北地震の地殻変動の寄与が大きいと想定される宮城県鮎川検潮所の潮位データ解析を進め、近傍のGPS観測点における上下変位と比較する。また、他の太平洋側の地点でも解析を行うことで、潮位と地殻変動の関係の地理的な差異についても考察する。さらに、潮位データから得た余効地殻変動がTobita (2016)の時間変化モデルに適合しているかを検証する予定である。