JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GD 測地学

[S-GD02] 測地学

コンビーナ:松尾 功二(国土交通省国土地理院)、横田 裕輔(東京大学生産技術研究所)、岡 大輔(地方独立行政法人北海道立総合研究機構環境・地質研究本部地質研究所 )

[SGD02-P13] 迅速・高精度なGNSS定常解析システムの構築に関する研究(3)

*中川 弘之1 (1.国土交通省国土地理院)

キーワード:GNSS、PPP-AR、GEONET、GEONET定常解析

国土地理院は全国の約1300点の電子基準点で取得されるGNSSデータを定常的に解析し(GEONET定常解析)、日本全国の地殻変動を監視している。この結果は、地震活動の評価や火山活動の監視における基礎的な資料として活用されている。しかし、地震発生のタイミングや火山活動の進行速度によっては、現在のGEONET定常解析の性能をもってしても迅速性や時間分解能が不十分な場合もありうる。

そこで我々は、波数の整数不確定性を決定する精密単独測位法(PPP-AR法)によって現在の定常解析よりも迅速・高精度な GNSS 解析手法を開発し、これを実装したプロトタイプシステムを開発することを目的とする研究開発を2017年度より3年計画で実施してきた。PPP-AR法では、従来の干渉測位法に比べて格段に少ない計算負荷で同程度の精度で、迅速に1エポックごとに観測点の位置を算出できる。本研究では後処理のPPP-ARにより全国の電子基準点の24時間分の1秒間隔座標時系列をデータ収集後約2時間以内に、水平方向のばらつき約1cmで安定的に算出するプロトタイプシステムを開発することを目標とした。

2020年3月までに以下の成果を得た。当日は、これらの成果の詳細について発表する。

1.後処理PPP-ARによって全国の電子基準点の1秒間隔座標時系列を計算するプロトタイプシステムを開発した。このプロトタイプシステムは以下の2ステップで構成される:最初にIGSやUNAVCO等によって運用されているグローバルなGNSS観測局の直近24時間分の観測データを用いてPPP-ARに必要な24時間分の衛星軌道情報、クロック、補正情報等を推定する。次にこれらの情報と電子基準点の観測データを用いてPPP-ARを行って24時間分の電子基準点全点の座標時系列を得る。

2.上記のプロトタイプシステムにより、条件が良ければ電子基準点データ取得後およそ2時間半程度で全国の電子基準点の座標時系列を得ることができた。

3.2018年7月から2019年6月までの1年間の試験解析期間において、推定したGPS衛星軌道情報のIGS最終暦に対する誤差を、IGS超速報暦のそれと比較した。その結果、本研究の結果は予測部分を含まないため、IGS超速報暦の予測部分よりは誤差が小さかった。IGS超速報暦の観測部分よりは誤差が大きかったものの、本研究ではおよそ20分間で軌道情報を推定することができ、IGSの暦よりもずっと高速である。

4.上記の試験解析期間において、全電子基準点の毎日の水平成分座標時系列の標準偏差を求めたところ、その平均値はおよそ1cmとなった。また、夏期は標準偏差が大きく冬期は小さいという結果が得られた。

5.プロトタイプシステムを用いて2016年熊本地震の前震とその約3時間後に発生した最大余震による地殻変動を計算した結果、GEONETの定常解析では分離できなかった両者の地殻変動を分離できることが示された。