JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT52] 最先端ベイズ統計学が拓く地震ビッグデータ解析

コンビーナ:長尾 大道(東京大学地震研究所)、加藤 愛太郎(東京大学地震研究所)、矢野 恵佑(東京大学大学院情報理工学系研究科)、椎名 高裕(東京大学地震研究所)

[STT52-P08] 流体力学分野で開発されたデータ駆動型スパースセンサ配置手法の地震学への応用に向けて

*永田 貴之1山田 圭吾1齋藤 勇士1野々村 拓1浅井 圭介1 (1.東北大学)

キーワード:データ駆動科学、スパースセンサ

流体力学分野では,流体解析や流れ制御において固有直行分解(POD)[1]などを用いたデータ駆動型低次元モデリングが積極的に応用されている.例えば,高次元の流体場データをPODにより分解し,流れ場の構造を表現するために重要ないくつかのモードを選択し再構築することで,流れ場データの次元を削減できる.また,図1に示すように,流れ場が限られた数のPODモードで効率的に表現できるなら,適切な位置に置かれた限られたセンサからの情報により全体の情報を復元することが可能である.この考え方はManohar et al.[2]によって用いられ,下記のように表される.
y = HUx (1)
ここでyRp, HRp × n, URn × rおよびxRrはそれぞれ観測ベクトル,スパースセンサ行列,空間PODモードおよびPODモードの振幅ベクトルである.また,p, nおよびrはそれぞれセンサ数,空間PODモードの自由度およびPODのランクである.式(1)の概要を図2に示す.この問題は,空間PODモードUがセンサ候補行列と仮定される場合のセンサ選択問題とみなせる.Hを求める計算がスパースセンサ位置決定に関する計算であり,凸緩和法[3]やQR-based貪欲法(QR法)[2]などの手法が用いられてきた.我々のグループでは,流体力学分野,特に実験流体力学データにおけるデータ駆動型スパースセンサ配置手法の研究を行っている.流体力学で取り扱うデータは高次元の多成分データであり,かつリアルタイムで計測や制御を行おうとした場合は高速にセンサ位置を選択する必要がある.また,特に実験データの場合は計測データに様々なノイズが含まれる.我々のグループではこれまでに大規模観測データにおける高速・高精度なセンサ位置選択手法[4],多成分データにおけるセンサ位置選択手法[5],相関ノイズを考慮したセンサ位置選択手法[6]を提案してきた.

大規模観測データに対する高速なセンサ位置最適化
 大規模データにおいては計算コストが問題となる.また,過去研究[2]ではセンサ数が状態変数の数よりも多い場合については十分に議論されていなかった.そこで,スパースセンサ配置問題のための最小二乗推定に対して,QR法を拡張することで高速化と適用範囲の拡大を行った.まず,目的関数を擬似逆行列演算に現れる行列式の最大化として定義し直すことで,状態変数よりもセンサの数が多い場合でも適切なセンサ位置選択が可能となった.提案手法はセンサ数が状態変数の数以下の場合は貪欲法と等価であり,それ以降のセンサは新しく提案された行列式と逆行列補題によって高速化された行列式ベースの貪欲法[4]によって選択される.数値実験により,提案手法は計算時間を大幅に短縮しつつ既存の手法[2,3]と同等のセンサ位置選択が可能なことを示した.

多成分データにおけるセンサ位置最適化手法
 流体のデータでは例えば流れ場の流速分布などしばしば多成分データを取り扱う.多成分データに対するスパースセンサ位置選択手法は,凸緩和法に関しては多成分データに対する拡張が行われていたが[3],計算コストが大きく高次元のデータを取り扱うには困難が伴う.そこで,凸緩和法に対して計算コストが大幅に削減可能なQR法を多成分データに拡張した.これにより,流体場のような高次元の多成分データに対しても最適なスパースセンサ位置選択が高速に実行できる.数値実験により,既存のベクトルデータ向けの凸緩和法やスカラデータ向けのQR法に対してより高速あるいは高精度なスパースセンサ位置推定を達成できることが示された.

ノイズ相関を考慮したセンサ位置最適化手法
 実験データには様々なノイズが混入するため,相関ノイズを含むデータに対してもロバストにセンサ位置を決定できる手法を開発した.この手法は,目的関数をベイズ推定演算子に現れる逆行列に対応する行列の行列式最大化に置き換えることでセンサ位置の最適化を行う.また,最適化されたセンサと事前情報を利用することで相関ノイズが存在する場合でもロバストに状態変数のベイズ推定が行える.数値実験により,提案手法の計算コストは従来手法よりも大きいが,状態変数の推定精度は我々が以前に提案した行列式ベースの貪欲法よりも改善することが示された.
 我々のグループでは今後,地震学の研究グループと協調してこれらの手法を発展させ,地震学における観測技術の発展に寄与していく予定である.

References
[1] Berkooz et al. Annu. Rev. Fluid Mech. 25, 539-575 (1993).
[2] Manohar et al. IEEE control system Magazine 38(3), 63-86 (2018).
[3] S. Joshi and S. Boyd, IEEE Transactions on Signal Processing 57(2), 451-462 (2009).
[4] Saito et al., arXiv preprint, arXiv:1911.08757 (2019).
[5] Saito et al., arXiv preprint, arXiv:1906.00778 (2019).
[6] Yamada et al., arXiv preprint, arXiv:1912.01776 (2019).