JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC45] 活動的火山

コンビーナ:前田 裕太(名古屋大学)、三輪 学央(防災科学技術研究所)、西村 太志(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)

[SVC45-04] 最新2溶岩の噴出年代とテフラ層序に基づく,北八ヶ岳・横岳火山過去4,000年間の火山活動

*新田 寛野1齋藤 武士1及川 輝樹2 (1.信州大学総合理工学研究科、2.国立研究開発法人産業技術総合研究所)

キーワード:八ヶ岳火山群、14C年代、噴火史、噴出率

中部日本に位置する横岳は,八ヶ岳火山群唯一の活火山であり,過去に9枚の溶岩流(Y1〜Y9)を流出している(河内, 1974-75).また,3枚のテフラ(Yt-Pm4, 大石・鈴木, 2004; NYk-1, NYk-2, 奥野, 1995)が報告されているものの,NYk-1, NYk-2テフラの分布の詳細は不明瞭であり,NYk-1テフラは明確なテフラ層であるかが疑問視されている(奥野・小林, 2010).我々はこれまでY8・Y9溶岩の噴出年代を明らかにするために古地磁気学的手法を柱にした年代推定を行い,Y8溶岩から約3.4 ka,Y9溶岩から約0.6 kaの年代を得た(Nitta et al. EPS, under review).今回,横岳最新期のテフラに着目し,山頂周辺の地形判読,山頂部から東側におけるテフラの地質調査,テフラ粒子(125〜250 µm)の鏡下観察,14C年代測定を行い,テフラ層序,分布,噴出量,各テフラの給源火口および噴火年代を検討した.

地形判読の結果,横岳山頂部に3つの火口地形(北から北火口,南火口,2350 m火口)を認めた.山頂に位置する北火口は,周囲に分布する溶岩の微地形とは異なり,滑らかな表面地形を持つ円錐形の斜面を有し,その斜面は東側に分布するY8溶岩を覆う.南火口は北火口縁の南側に隣接して開口する側火口である.2350 m火口は,南火口から約250 m南方に位置し,南北に伸張して開口する楕円形の側火口である.

地質調査の結果,NYk-1, NYk-2テフラに加えて1枚のスコリア層(NYk-Sテフラと呼称)を認めた(下位から順にNYk-2,NYk-S,NYk-1テフラ).NYk-2テフラは,下部の暗灰色の砂礫層と上部の黄褐色の砂礫層からなり,砂~礫サイズの未発泡で角礫質な岩片から構成される.奥野・小林 (2010) は,暗灰色層が山頂の南側で粗粒化し層厚も増加することから,南火口を給源と推定している.しかし,本研究の結果では,NYk-2テフラは北火口を中心に粗粒化することから,NYk-2テフラは北火口由来であると推定した.NYk-Sテフラは,発泡したスコリア質火山灰および火山礫からなり,しばしば角礫質な岩片を含む.下位から3枚のスコリア層に区分され,露頭では上位のNYk-1テフラと共に産出することが多い.スコリア層は,北火口縁の東側で約10 cmの層厚を示すのに対し,南火口縁の南東側では50 cm以上の層厚を有し,かつ南火口縁の地表面および層中が多くのスコリア質火山礫および火山弾で構成されることから,NYk-Sテフラは南火口由来であると推定した.NYk-1テフラは,火山ガラスを含む明灰色の細粒~粗粒火山灰層で,横岳山頂から北東~南東方向に比較的広域に分布する.山頂部で粗粒化し層厚が増加する傾向を示すことから,NYk-1テフラは明確なテフラ層であり,横岳起源のテフラであると考える.

年代測定の結果,NYk-2テフラの黄褐色砂礫層に含まれる炭化物,NYk-Sテフラ直下およびNYk-1テフラ直下の土壌から,それぞれ2,363〜2,323 cal yr BP,791〜730 cal yr BP,518〜478 cal yr BPの14C年代(暦較正年代; 2σ)を得た.黄褐色砂礫層の14C年代は,暗灰色砂礫層の14C年代(2,350〜2,150 cal yr BP; 奥野・小林, 2010)と,NYk-1テフラ直下の14C年代は,テフラ直上の14C年代(550〜510 cal yr BP; 新田・齋藤, 2019, 火山学会)と整合的である.従って,各テフラの噴火年代は,NYk-2テフラが約2,400年前,NYk-Sテフラが約800年前,NYk-1テフラが約550年前と推定した.

各テフラの噴出量を,NYk-2テフラは推定される分布面積から,NYk-S,NYk-1テフラは得られた等層厚線図からHayakawa (1985)の経験式に当てはめて求めた.その結果,NYk-2テフラが2.0×103 km3(8.0×104 DRE km3),NYk-S テフラが2.4×103 km3(9.4×104 DRE km3),NYk-1テフラが7.8×104 km3(3.1×104 DRE km3)と推定された.

横岳火山の噴出率を,本研究結果と既知の年代および噴出量(Kawachi et al., 1978; 大石・鈴木, 2004; 大石, 2015; Nishiki et al., 2011)に基づき推定した.その結果,横岳過去34,000年間と3,400年間の噴出率は,約9×103,1×102 km3/kyと推定された.この値は活動期間全体(約50万年間)の噴出率(2.8×101 km3/ky)と比べると一桁低いものの,過去34,000年間にわたって横岳の噴出率は減少していることなく,ほぼ一定であると考えられる.

以上より,八ヶ岳火山群全体の活動は低下しているものの横岳火山の最近の数千年間の噴出率は減衰していないと考える.また,これまで考えられていたように溶岩流を流出させる活動だけでなく,スコリアを含むテフラを放出するような爆発的噴火も複数回起こしていることが明らかとなった.