日本地球惑星科学連合2021年大会

出展者情報

ULAT/SATREPS フィリピンにおける極端気象の監視・情報提供システムの開発

 積乱雲強度の高時間分解能観測の手法として、近年世界的に注目されている雷放電計測と、超小型衛星等を用いたこれまでにない高空間解像度のオンディマンド雲撮像を結合させた稠密積乱雲観測システムをフィリピンに構築する。この観測システムで得られるデータから台風や積乱雲に伴うマニラ首都圏における極端気象出現の短時間予測の手法を参画機関で共同開発し、人命や社会活動に対する極端気象による被害を大幅に軽減するために有効な警報システムを現地に確立することを目的とする。
 この目的を達成するために、以下の研究項目を実施する。
 
1. 雷放電観測
 フィリピン側の機関が運用するマニラ首都圏の観測サイトに鉛直電場計測器を設置し、他の補完的な気象計測機器と共に実験運用する。同地域上空における積乱雲の発達・衰退の過程を開始から消滅まで連続的にリアルタイムモニターし、落雷や豪雨の可能性を、数分から1時間程度前に予測するとともに、落雷や雲間放電の位置を数km程度の精度で同定する。技術的なめどを立てた後、フィリピン(ASTI、PAGASA、Manila Observatoryなど)の運用する気象ステーションなどの観測施設20-40カ所に加え、IoTを駆使して約100カ所の観測点に実運用型の装置を展開する。また、日本側が展開してきた、東南アジア7カ所のVLF電波観測網(AVON)の整備・改良と、フィリピン国内約10カ所の観測点から構成されるNation-wideの雷放電観測網を新たに構築することで、フィリピン全土で発生する落雷の位置を10km以下の精度で同定し、またマニラ首都圏の気象予測の背景となる、台風などの広域(数100kmスケール)の積乱雲活動をリアルタイムでモニターする手法を確立する。AVONは東南アジアで唯一のVLF帯の放電波形観測する多点観測網であり、それを整備・改良することで、フィリピンに接近する台風に伴う雷放電活動を、台風の発生段階から通過後に至るまでの一貫した監視が可能になる。
 
2. 高精度雲観測
 衛星データを受信する地上局を設置、運用し、既存衛星及びプロジェクト期間中に打上げられる超小型衛星による気象データの受信と解析ができる環境を整える。また、日本の地上局も使った超小型衛星によるオンディマンド運用実験を行い、次世代の衛星運用の技術を確立・修得する。衛星から得られたデータを解析し、積乱雲の立体構造の推定を10m オーダーの解像度で行い、それを雷放電活動や降水のデータ比較することで、豪雨や雷放電予測に有効な衛星観測の手法を確立する。さらに、衛星搭載機器の開発を体験に基づき、プロジェクト期間終了後、自国衛星の開発を高度化すると同時に、運用や利用方法の改良を行い、さらに、より大型の衛星を購入、運用する能力を修得する。
 
3. ナウキャスト
 雷や雲の高精度立体構造など新規性の高い情報をもとに、集中豪雨および落雷地域の短時間予測、および台風強度の24時間前予測の手法を開発する。またそれらに起因する各種の災害(洪水、突風、土砂災害、停電、ネットワーク障害などの可能性)を予測に供する情報を提供できる体制を確立する。
 
4. 警報発信社会実装
 集中豪雨および落雷地域の短時間予測に基づく、豪雨・落雷予想のマップ、および台風強度の24時間前予測値を公開するためのHPを作成する。また市民に警報として伝えるためのSMSやスマートフォン・アプリを使った手法を開発する。さらに、フィリピン政府との協議の上で、試験運用の実施を検討する。