日本地球惑星科学連合2021年大会

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[E] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS03] 台風研究の新展開~過去・現在・未来

2021年6月3日(木) 17:15 〜 18:30 Ch.02

コンビーナ:金田 幸恵(名古屋大学宇宙地球環境研究所)、和田 章義(気象研究所台風・災害気象研究部)、宮本 佳明(慶應義塾大学 環境情報学部)、伊藤 耕介(琉球大学)

17:15 〜 18:30

[AAS03-P01] 2018年台風Tramiの眼内部で観測されたメソ構造

*山城 来奈1、坪木 和久1、山田 広幸2 (1.名古屋大学宇宙地球環境研究所、2.琉球大学)

台風は全体スケールが1000kmを超える大規模な擾乱であるが、その中に形成されるメソシステムは数10㎞スケールの現象である。台風内で形成されるメソ構造は、強風や豪雨を伴っており、防災上最も注意しなければならない。2018年台風Tramiは、9月29日から30日にかけて沖縄本島と久米島の間を通過したとき、沖縄本島にある複数のレーダーにより台風の内部コア領域が観測された。本研究は、台風Tramiの眼の壁雲内側領域で発生するメソ構造の実態と構造を明らかにすることを目的とし、気象衛星、地上気象観測、偏波レーダー、フェーズドアレイ気象レーダーを用いて、台風の内部コア領域について解析を行った。
解析を行った久米島、那覇、恩納、名護の4地点の地上風の変化をみると、台風の眼の中で風速が弱く、台風の壁雲内で風速が強いという共通の特徴がみられた。一方で、台風の眼の通過時や壁雲の内縁が通過する際に、相当温位の顕著な低下と、強風が観測された。相当温位の減少は約40分続き、風速の増大を伴っていた。また、水蒸気混合比も減少していたことから、乾燥空気が通過する際に強風域を伴って通過していたことが示された。
沖縄偏波降雨レーダー(COBRA)とフェーズドアレイ気象レーダー(PAWR)の降水分布によると、壁雲は3つの節を持つ多角形構造をもち、節と節の間の辺が通過するときに強風が吹いており、辺の部分の弱いエコーが徐々に台風の中心へ入り込んでいく様子が見られた。また、COBRAレーダーで観測された高度1.0kmの反射強度のCAPPIでは、台風中心付近に存在するメソ渦が確認でき、メソ渦が恩納観測点を通過後に相当温位が低下し始めていたことが分かった。しかし、恩納で強風が発生した時間にメソ渦が50km以上離れていたことから、メソ渦と強風の直接的な関連性は見られなかった。
壁雲内側領域の鉛直運動を調べるために、CVAD法という解析方法を開発し、それを用いて風速場の解析を行った。このCVAD法は、PAWRレーダーによって取得された円柱状のドップラー速度のデータを使用し、レーダー上空における水平風の鉛直分布の算出する方法である。この解析により、恩納で相当温位が低下している期間に下降流が卓越していたことが分かった。また、半径20kmの結果は、強い水平風と上昇流を示したことから、恩納は台風の二次循環の上昇流のすぐそばに位置しており、恩納に近い壁雲には強風域が存在し、一次循環の強い接線風が存在していたと考えられる。これは、地上に空気塊が運ばれる際に強風を伴っていたことを示し、逆転層より上層の一次循環の運動量を持った低相当温位の空気塊が地上へ運動量輸送が起こったことで強風が発生し、地上の相当温位が低下したことを示唆する。
本研究では、台風Tramiの眼の内側領域の極下層で発生する強風をもたらすメソ構造を解析した。この強風は、多角形眼の辺が近づく際に発生し、台風の二次循環に伴う強い上昇流の補償下降流によって、逆転層より上層の一次循環の運動量を持った空気塊が地上へ運ばれたことにより発生したと考えられる。