日本地球惑星科学連合2021年大会

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[E] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS03] 台風研究の新展開~過去・現在・未来

2021年6月3日(木) 17:15 〜 18:30 Ch.02

コンビーナ:金田 幸恵(名古屋大学宇宙地球環境研究所)、和田 章義(気象研究所台風・災害気象研究部)、宮本 佳明(慶應義塾大学 環境情報学部)、伊藤 耕介(琉球大学)

17:15 〜 18:30

[AAS03-P02] NHM-Chemを用いた台風による海塩粒子の輸送・沈着シミュレーションと塩害

*阿部 未来1、宮本 佳明1、梶野 瑞王2 (1.慶應義塾大学、2.気象庁 気象研究所)


キーワード:台風、化学輸送モデル、霧、海塩粒子、塩害

台風は、暖かい海の上で発生、発達し、7〜10月に日本に接近・上陸する。上陸した際には強風や強雨をもたらす。台風の強風に伴って大量の海塩粒子が海面から生成され、風によって輸送されて地上に沈着する。海塩粒子が農作物や建造物等に沈着すると塩害被害につながる。沈着の過程は、海塩粒子を凝結核とする降水による湿性沈着と、海塩粒子が風によって吹き付けられることで沈着する乾性沈着、海塩粒子を凝結核としているが降水はもたらさずに沈着する霧による沈着の3つに分けられる。しかし、台風による海塩粒子の輸送過程については、支配的な沈着過程や、各過程による沈着量の空間的な分布など、未解明な点が多く残る。

本研究では、気象庁領域気象化学モデル(NHM-Chem)(Kajino et al., 2019)を用いて、2016年8月の台風9号による海塩粒子の放出、輸送、沈着過程の再現実験を行なった結果を報告する。計算の結果を解析すると、湿性沈着、乾性沈着、霧による沈着の各分布の特徴に大きな違いが見られた。乾性沈着は全体の約35%で沿岸部に集中していたが、湿性沈着は約65%を占め内陸にまで見られた。霧による沈着はごく少量であった。特に興味深い結果が、霧による沈着が、台風の接近に伴って北海道東方に見られたという点である。これまで、霧による塩害や、霧と台風との関係についての研究はほとんどない。この結果は、台風の接近によって霧が生成されること、霧による海塩粒子の沈着は塩害を引き起こすことを示唆している。

引用文献:
Kajino, M., et al. 2019: NHM-Chem, the Japan Meteorological Agency’s Regional Meteorology – Chemistry Model: Model Evaluations toward the Consistent Predictions of the Chemical, Physical, and Optical Properties of Aerosols, J. Meteor. Soc. Japan, 97(2), 337-374.