日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS05] 大気化学

2021年6月6日(日) 10:45 〜 12:15 Ch.08 (Zoom会場08)

コンビーナ:中山 智喜(長崎大学 大学院水産・環境科学総合研究科)、齋藤 尚子(千葉大学環境リモートセンシング研究センター)、豊田 栄(東京工業大学物質理工学院)、内田 里沙(一般財団法人 日本自動車研究所)、座長:竹川 暢之(東京都立大学 大学院理学研究科)

12:00 〜 12:15

[AAS05-11] 全球モデルを用いたアジアダストの混合相雲における氷晶核としての重要性の評価

*河合 慶1、松井 仁志1、當房 豊2,3 (1.名古屋大学、2.国立極地研究所、3.総合研究大学院大学)

キーワード:アジアダスト、黄砂、氷晶核、混合相雲、全球エアロゾルモデル

鉱物ダストは、過冷却水滴と氷晶から成る混合相雲において、最も重要な氷晶核であると考えられている。ダスト氷晶核は混合相雲の微物理・放射過程を通して、地球の放射収支に影響を与える。ダストの氷晶核能については雲チャンバーを用いて測定が行われているが、実際にどのくらいの量のダストが上空へ輸送され、氷晶核として働いているかはよく分かっていない。東アジアの乾燥・半乾燥地域(ゴビ砂漠やタクラマカン砂漠)から放出されるアジアダスト(黄砂)は、発生源の標高が高く、しばしば寒冷前線によって上空へ輸送されることから、氷晶核として働くポテンシャルが高い可能性がある。そこで、本研究では、全球エアロゾルモデルCAM/ATRASを用いて、全球のダスト氷晶核数に対するアジアダストの寄与と、雲放射強制力への影響について調べた。モデルの混合相雲の氷晶核スキームには、気温とダスト数濃度から氷晶核数濃度を計算するパラメタリゼーションを導入した。2012~2017年のモデル計算を行い、解析には2013~2017年の結果を使用した。
モデル計算は、アジアダストが日本に輸送された2017年5月における東京スカイツリーでの氷晶核数濃度の観測結果をよく再現した。計算結果から、アジアダストの放出量は283 Tg/yrと推定され、全球のダスト放出量の7.1%であった。アジアダストは東アジアから北太平洋、北アメリカ、北極へ輸送された。アジアダストの年平均の大気中量は1.2 Tgと推定され、全球のダスト大気中量の3.4%を占めた。特に、混合相雲が形成される気温の範囲(−38°C~0°C)では、この割合は13%に増加した。全球のダスト氷晶核数に対するアジアダストの寄与は15%と推定され、これは全球のダスト放出量に対する寄与の2.1倍、全球のダスト大気中量に対する寄与の4.4倍であった。これらの結果から、アジアダストは上空の気温の低い高度へ輸送されやすく、混合相雲で氷晶核として働くポテンシャルが高いことが示された。感度実験から、アジアダストの氷晶核は東アジアと北太平洋において、年平均で0.054~0.19 W/m2の正の雲放射強制力をもたらすと推定された(アジアダスト以外のダストは0.092~1.0 W/m2)。