日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS05] 大気化学

2021年6月6日(日) 13:45 〜 15:15 Ch.08 (Zoom会場08)

コンビーナ:中山 智喜(長崎大学 大学院水産・環境科学総合研究科)、齋藤 尚子(千葉大学環境リモートセンシング研究センター)、豊田 栄(東京工業大学物質理工学院)、内田 里沙(一般財団法人 日本自動車研究所)、座長:峰島 知芳(国際基督教大学)

15:00 〜 15:15

[AAS05-17] SLCPとしてのCH4, O3削減目標への実験的アプローチ:アジアを例として

*秋元 肇1、永島 達也1、谷本 浩志1、クリモント ジーク2、アーマン マーカス2 (1.国立環境研究所、2.国際応用システム分析研究所)

キーワード:短寿命気候汚染物質、SLCP、CH4、O3、NOx、NMVOC

中期および長期における気候変動の抑制のためには,CO2の排出削減と共にSLCPを共制御することが重要であることはよく知られているが,特にCH4, O3に関してはそれらおよびその前駆体物質間の複雑な相互関連のため,SLCPの具体的な目標設定の政策立案にあたってはしばしば困難に遭遇する.通常行われる化学―気候モデルによる解析を用いた将来シナリオの議論では,その様な相互作用は科学的に取り扱われる一方,それぞれのSLCP化学種削減の温暖化抑制に対する寄与に関してはブラックボックスとなってしまいがちである.それぞれのSLCP削減の温暖化抑制に対する有効性に対し,より直接的なメッセージを政策立案者に伝えるために,本研究では放射強制力(RF)の歴史的なレベルに基づく,CH4および対流圏O3のトップダウン法による削減目標の設定手法を提案する*.

大気中のCO2濃度増加による中期未来におけるRFは,CO2の大気中寿命が100年以上と長いため,当面の排出規制の厳しさに関わりなく, 2040年には~0.80Wm−2増加するであろう.これを打ち消すために,もしCH4およびO3の大気濃度を2010年の値から,1980, 1970, 1960, 1950年レベルにまで低下させることが出来たなら,IPCC 2013のデータによれば,CH4およびO3によるRFの値はそれぞれ0.48 Wm−2から0.41, 0.34, 0.27, 0.22 Wm−2,および 0.40 Wm−2 から 0.29, 0.23, 0.19, 0.15Wm−2へと減少するはずである.即ち例えば,CH4およびO3の大気中濃度を1970年レベルまで低下させられれば,CH4とO3のRFの和は0.31 Wm−2低下し,これはCO2によるRFの増加量の40%を補償することになる.

 ここでは,CH4, O3濃度を1970年レベルに低下させるために必要な,全球におけるCH4, NOx, NMVOCの削減率をアジアに適用して得られた結果を,Solution Report (2018) (UNEP Asia Pacific Office) で提案されているGAINSモデルから得られた費用効果を考慮した2030年における排出削減率とセクター別に比較した.その結果,CH4については水田および廃棄物処理からの1970レベルへの排出削減は達成の可能性が大きいが,家畜反芻動物からの排出削減率を達成するには新しい技術/習慣が必要であることが分かった.NOxの排出削減に関しては,運輸部門の排出削減は達成の可能性が高く,NMVOCに関しても運輸部門および廃棄物処理部門では達成の可能性が高い.これに対しSolution Reportにおける石炭・天然ガス・石油生産部門からのCH4およびNMVOC,工業発電部門のNOxの排出削減率は十分でなく,これらの達成には化石燃料から再生可能エネルギーへのエネルギー転換をより促進することが有効と結論された.

* H. Akimoto, T. Nagashima, H. Tanimot1, Z. Klimont and M. Amann, An empirical approach toward the SLCP reduction targets in Asia for the mid-term climate change mitigation, Prog. Earth Planet, Sci., 7:73, https://doi.org/10.1186/s40645-020-00385-5, 2020.