日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS06] 成層圏・対流圏過程とその気候への影響

2021年6月3日(木) 09:00 〜 10:30 Ch.06 (Zoom会場06)

コンビーナ:木下 武也(海洋研究開発機構)、坂崎 貴俊(京都大学 大学院理学研究科)、高麗 正史(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻大気海洋科学講座)、江口 菜穂(Kyushu University)、座長:木下 武也(海洋研究開発機構)

09:40 〜 09:55

[AAS06-03] 熱帯沿岸域の海陸双方向重力波によるQBO頑健化

*山中 大学1,2、荻野 慎也2 (1.総合地球環境学研究所/神戸大学名誉教授、2.海洋研究開発機構)

キーワード:日周期海陸風循環、内部重力波、波動平均流相互作用、準二年周期振動

赤道域下部成層圏で顕著な準二年周期振動(QBO)は波動平均流相互作用理論で基本的に説明されるが,その周期や緯度・高度範囲に見られる頑健性から示唆されるほぼ等振幅な東西双方向の波動の励起機構についてはまだ解明されていない.近年の観測から赤道近傍の地上,特に海岸最長のインドネシア海大陸(IMC)では沿岸日周期(CDC)が最も卓越し[1],これに伴う海陸風循環は上下伝播内部重力波の重畳で,その水平位相速度は海陸両方向かつ東西両岸で逆向きである.このCDCは,大循環モデルでは正確に再現できていないこともQBOと共通している.CDCは洋上の季節内変動(や亜熱帯の台風)と並ぶ(むしろより有力な)熱帯対流雲生成機構で, 海水面変動や陸面状態で変わる海陸間温度差で決まるので,CDCとQBOとが関係付けられれば,これまで指摘されたQBOとエルニーニョ南方振動(ENSO)や地球温暖化などとの関係も一挙に説明できる.
 観測されるCDC雲(上昇)域[1]は, 夕刻に山岳部を発し未明に海上に達するものと, 未明に海上を発し夕刻に山岳部に達するものとがあり,水平位相速度の大きさは陸上や沿海上で102 km/半日≒10 km/h ≒3 m/s程度で,沖では速くなり,また個々の雲移動や雲底収束風は20 m/s程度になる.直接観測しにくい下降域も含めたCDC海陸風循環に対応する理論解は,|Coriolis因子|<2π/1日となる南北緯30°以内では慣性内部重力波で,渦粘性(拡散)効果まで考慮した分散関係は鉛直波数の自乗m2の3次式となる[2]. 下端(地上)では鉛直流=0を満たすため上下伝播成分は等振幅で,粘性(m6)項が浮力(m0)項と釣合う定常水平対流セルとなり,その強さや規模(水平波数の逆数k-1~数百km)は海陸間温度勾配kΔTで決まる.このセルより上では加速度(m2項)が浮力と釣合い,放射条件により上伝成分が卓越する. kΔTは 昼夜で逆転し(周波数ω = 2π/1日),それぞれ陸海双方向の水平位相速度c = ω/k~数m/sとなる.
 CDC双方向重力波生成は,最も簡単なPlumbのQBO-analog [3]の想定に近い(1).QBOの緯度範囲を決めるのは,重力波上方伝播可能域より狭く,日射日周期が年周期より卓越する両回帰線内の,IMC南北幅と重なる南北緯10°程度以内である.QBO東西風振幅を決めるcとしては,CDCのうち洋上や個々の雲による波が重要である.QBOの周期を決める重力波振幅つまり海陸温度差kΔTはENSO等で増減するが,現実以上に増すと二重周期が現れ,減じると構造が崩れる.
 低緯度CDCは,中緯度山越え気流(停滞波による弱風層生成)[4]と共に自転地球による大気圏コントロールである.赤道上にはアフリカ・南米がIMCとほぼ-90°,+180°の位置関係にあることに加え,地球自転が充分に高速であることが本来局所的な日射強制を実質的に帯状化させている(2).太平洋エルニーニョやインド洋ダイポールモードでIMCの海水温が下がるとCDCも弱まり, QBOの周期は延びる(が何れも不明瞭).季節内変動(MJO)は雲団上陸を通じてCDCに影響し,QBOにも関係し得る.CDCは,金星大気で全球的位相構造の日周期(潮汐)について検討されたような“moving flame”作用[5]を生じない.CDCは海陸共存惑星地球ならではの現象で,陸惑星(金星・火星)や海惑星では起きない(木星QQOは別原因ということになる).CDCは子午面循環・水循環(cold trap)と連動し,海岸線分布のほか陸上の植生や人間活動(heat island)などでも振幅が変わるので,これらもQBOの周期を変調させる可能性がある.
 参考文献 [1] Yamanaka et al., 2018: Prog. Earth Planet. Sci., 5, 21. [2] Rotunno, 1983: J. Atmos. Sci., 40, 1999. [3] Plumb, 1977: J. Atmos. Sci., 34, 1847. [4] Tanaka & Yamanaka, 1985: J. Meteor. Soc. Japan, 63, 1047. [5] Schubert & Whitehead, 1969: Science, 163(3862), 71.