日本地球惑星科学連合2021年大会

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[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS06] 成層圏・対流圏過程とその気候への影響

2021年6月3日(木) 10:45 〜 12:15 Ch.06 (Zoom会場06)

コンビーナ:木下 武也(海洋研究開発機構)、坂崎 貴俊(京都大学 大学院理学研究科)、高麗 正史(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻大気海洋科学講座)、江口 菜穂(Kyushu University)、座長:坂崎 貴俊(京都大学 大学院理学研究科)

11:20 〜 11:40

[AAS06-09] 2019年南半球成層圏突然昇温後の対流圏における負の南極振動の持続と季節予測可能性

★招待講演

*小林 ちあき1、前田 修平2 (1.気象研究所、2.気象庁)

キーワード:成層圏突然昇温、南極振動、季節予測可能性

2019年に南半球で成層圏突然昇温(SSW)が発生し、その後、対流圏では負位相の南極振動(AAO)が10月半ばから12月末まで卓越・持続した。本研究では、対流圏内における負位相の南極振動の持続と成層圏突然昇温との関係を調べ、負位相が維持しやすい波活動偏差が形成されていたことを示す。また、季節予測モデルを用いて予測可能性を調べ、負位相の南極振動の持続が季節予測可能であったが、インド洋熱帯域海面水温(SST)偏差がこの予測可能性にあまり影響していないことを示す。

 循環場の解析に用いたデータは、気象庁長期再解析データJRA-55(Kobayashi et al., 2015)である。予測データは現業季節予測モデル(全球大気海洋結合モデルCPS2, Takaya et al., 2018)による2019年9月13、28日を初期値とするアンサンブル6か月予測実験の結果である。これらのデータに等温位面上の質量重み付き平均法(MIM, Iwasaki 1989, 1992)を適用し波活動偏差の解析を行った。

 南半球のSSWに伴う成層圏から対流圏にかけての極渦の強弱の時間変化を見ると、9月初めのSSW以後、極渦の弱い状態が成層圏上部で持続し、偏差の中心は10月半ば以降に成層圏下部に下降した。この様子は季節予測実験でもよく予測された。

 負のAAOが持続した期間の帯状平均場について、波‐平均流相互作用の観点から確認する。2019年10月から12月の3か月平均東西風では気候値で見られる成層圏の極夜ジェットが存在していない。これに対応して、極夜ジェットに沿った導波管は存在しておらず、対流圏からのプラネタリー波が平年より鉛直伝播しにくい状態となっていた。波活動度を見ると、対流圏中上層の50~70度にかけてE-Pフラックスの収束が強かった。E-Pフラックスの収束発散偏差の空間構造から診断されるように、対流圏中緯度の直接循環は強化偏差を示し、これによる対流圏下層での中緯度への寒気流出偏差を示唆している。この子午面循環偏差も季節予測実験で予測された。

 2019年10月から12月にかけて、インド洋熱帯域のSST偏差は西側で高く東側で低い分布となり、インド洋熱帯域全域でも高温偏差が見られていた。この熱帯SSTの負位相AAOへの影響を確認するため、インド洋熱帯域のSSTを気候値SSTにナッジングした感度実験を行った。この感度実験の結果は、前節の季節予測実験と同様に、成層圏突然昇温シグナルの下降や10月半ば以降の対流圏でのAAOの持続が予測された。また、帯状平均の波活動状況であるEPフラックスの偏差も、季節予測実験とほぼ同じ特徴を示している。これは、インド洋熱帯SST偏差が無くても負のAAOの予測が再現されることを示している。
 この実験結果はインド洋熱帯域のSSTはAAOの負位相の持続にあまり影響しないことを示唆した。今後の課題として、何がAAOの負位相の持続に寄与したのか、何が季節予測可能性の源であったのか、解析を進めたい。また、対流圏の負のAAOは10月半ば過ぎから卓越したが、始まる時期を季節予測実験でも予測できていたことは興味深い。予測できた理由を調べ、成層圏‐対流圏結合の理解を深めることも今後の課題である。