日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CC 雪氷学・寒冷環境

[A-CC25] ニューノーマルの雪氷学

2021年6月3日(木) 17:15 〜 18:30 Ch.04

コンビーナ:永井 裕人(早稲田大学 教育学部)、舘山 一孝(国立大学法人 北見工業大学)、石川 守(北海道大学)、紺屋 恵子(海洋研究開発機構)

17:15 〜 18:30

[ACC25-P02] 2019年5月21日に木曽御嶽山で発生した大規模雪崩の状況と原因に関する考察

*鈴木 秀雄1、齋藤 武士2、牧野 州明2 (1.信州大学 総合理工学研究科 理学専攻 地球学ユニット、2.信州大学 学術研究院理学系)

キーワード:雪崩、スラッシュ、粘土質火山灰、木曽御嶽山、泥流、水蒸気噴火

長野県と岐阜県の県境に位置する木曽御嶽山の山頂付近の一ノ池火口から二ノ池火口にかけての斜面で,2019年5月21日朝に雪崩が発生した(以下,二ノ池雪崩)。斜面を流下した雪崩は二ノ池に到達し,登山道と二ノ池山荘に被害をもたらした。さらに,二ノ池火口から下流の湯川上部においても雪堆積層の崩落と泥流が発生した。崩落体積は2×104 ㎥と推定され,これはカナダの雪崩サイズ分類システムのサイズ4(大規模)に相当する。この付近でこのような規模の雪崩の発生と被害の記録は,これまで報告されていない。一方で,湯川上部では2011年5月にも2019年5月とほぼ同じ場所からの雪堆積層の崩落と泥流の発生が確認されており,同様のイベントが繰り返されていた可能性がある。木曽御嶽山では,2014年の水蒸気噴火によって,粘土質火山灰が雪崩発生斜面から上部の一ノ池火口周辺にかけて厚く堆積した。2019年の気象条件(0度をまたぐ急激な気温上昇と短時間に多量の降水)に加えて,2014年噴火火山灰層の存在が二ノ池雪崩を誘発した可能性があると考え,現地調査,水・堆積物試料採取と分析,雪崩発生のモデル実験を行ったのでここに報告する。

現地調査の結果,雪崩の崩壊斜面には明瞭な破断面が複数確認され,二ノ池に堆積したデブリは元の堆積構造を保持したままスライドしてきたことが明らかとなった。國友ほか(2019)は本雪崩をスラッシュ雪崩と分類したが,本研究の結果,面発生全層雪崩として発生したことが明らかとなった。一方で湯川から下流では,雨裂が形成されており,雪泥によると見られるレヴィ状堆積を確認した。二ノ池から下流の湯川以降では雪泥化し,泥流として流下したと考えられる。

水試料分析および堆積物のXRD分析の結果,一ノ池および二ノ池から採取した水は多量のCaイオンとSO4イオンを含み,2014年噴火火山灰にはGypsumが含まれることが分かった。雪崩発生面の基底部には2014年火山灰を多量に含んだ水が流下した痕跡が確認でき,Gypsumを含む粘土質火山灰層が難透水層として作用すると同時に,溶解したGypsumの成分がグライドの増加にも寄与した可能性がある。
2つの雪のブロックの境界に水や2014年火山灰を加えて傾斜させることで,滑りやすさを評価するモデル実験を行った。その結果,2014年火山灰層がある程度水と混濁した状態が雪層間に存在するときが最も滑りやすいことが明らかとなった。今回の二ノ池雪崩は,気象条件に加えて2014年噴火火山灰層の存在が,これまで報告例のない大規模な雪崩の発生につながった可能性があると考える。