日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CC 雪氷学・寒冷環境

[A-CC26] アイスコアと古環境モデリング

2021年6月3日(木) 17:15 〜 18:30 Ch.04

コンビーナ:竹内 望(千葉大学)、阿部 彩子(東京大学大気海洋研究所)、植村 立(名古屋大学 環境学研究科)、川村 賢二(情報・システム研究機構 国立極地研究所)

17:15 〜 18:30

[ACC26-P08] 中央アジア・パミールアライ山脈アイスコアの安定同位体分析による水蒸気の起源の推定

*瀬戸 大貴1、竹内 望1、Vladimir Aizen2、對馬 あかね3、川村 賢二4、藤田 耕史5 (1.千葉大学、2.アイダホ大学、3.千葉大学大学院理学研究院、4.名古屋大学大学院環境学研究科、5.情報・システム研究機構 国立極地研究所)

キーワード:中央アジア、パミールアライ山脈、アイスコア、安定同位体、水蒸気

ユーラシア大陸の内陸部に位置する中央アジアは,年間降水量が少ない乾燥地帯である.中央アジアの限られた降水は山岳域に集中し,山岳氷河を形成する.中央アジア山岳域の氷河の変動および降水のもとになる水蒸気の起源の推定は,地域の水資源の評価に重要である.本研究は,中央アジアの西部に位置するパミールアライ山脈の氷帽から掘削されたアイスコアの水素・酸素安定同位体比の分析を行い,この地域に供給される水蒸気の起源およびその変動を明らかにすることを目的とした.

 本研究では,2016年8月にパミールアライ山脈の標高約5300 mの氷帽頂上で,底部基盤岩まで掘削した36.9 mのアイスコアの水素・酸素安定同位体比の分析を行った.アイスコアの平均水素および酸素安定同位体比は,それぞれ-58.0‰,-10.0‰で,平均d-excess値は22.3‰であった.アイルコアの層位は,融解再凍結の影響を強く受けていることを示していたため,同位体比の深度プロファイルの季節および年変動の評価は難しいと判断した.一方,アイスコアの深部に比べ表層付近の平均同位体比は高い値を示し,これは近年の温暖化傾向を示していると考えられる.アイスコアの同位体比を,パミールアライ山脈の周辺の降水・河川水の同位体比と比較した結果,アイスコアの同位体比は,南部の降水や河川水の同位体比の高度効果では説明がつかない一方,北部の天山山脈周辺の降水や河川水の同位体比の傾向とは整合的であることがわかった.中央アジアの他のアイスコアの同位体比と比較した結果,本研究のアイスコアの同位体比は,南部パミールのアイスコアよりも高い値であった一方,北部の天山山脈のアイスコアに近い値であった.以上の結果から,パミールアライ山脈周辺の降水の水蒸気は,インド洋起源の南部パミール山域とは異なり,西部の地中海やカスピ海等から供給される北部の天山山脈と同様の起源をもつことが示唆された.