日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CC 雪氷学・寒冷環境

[A-CC26] アイスコアと古環境モデリング

2021年6月3日(木) 17:15 〜 18:30 Ch.04

コンビーナ:竹内 望(千葉大学)、阿部 彩子(東京大学大気海洋研究所)、植村 立(名古屋大学 環境学研究科)、川村 賢二(情報・システム研究機構 国立極地研究所)

17:15 〜 18:30

[ACC26-P09] 中央アジア,パミールアライ山域で掘削されたアイスコアの花粉および固体粒子分析

*竹内 望1、鋸屋 遥香1、藤田 耕史2、川村 賢二3、對馬 あかね1、Aizen Vladimir4 (1.千葉大学、2.名古屋大学、3.国立極地研究所、4.アイダホ大学)

キーワード:アイスコア、花粉、中央アジア

山岳氷河から掘削されたアイスコア中には,氷河周辺の植生から飛来した花粉が高濃度で含まれている.花粉は特定の季節に氷河に飛来することや,その種構成は周辺植生を反映することから,アイスコアの年層決定や周辺地域の植生のプロキシーとして利用されている.本研究では,2016年に中央アジア,パミールアライ山域の標高5300 mの氷帽頂上で掘削された2本のアイスコアについて,花粉分析による年層決定および過去環境の復元を目的とした.花粉分析には顕微鏡観察によって花粉の種同定およびカウントを行い,その結果を層位観察,水素酸素安定同位体比分析の結果との比較をし,年層の決定を行った.また,アイスコア中の花粉の種構成から花粉の輸送過程および過去の植生の復元を試みた.加えて,アイスコアの顕微鏡分析で観察された特徴的な鉱物粒子を含む固体粒子についても詳細な分析を行い,その発生源について考察した.深さ11.5 mのCore 2の分析の結果,主にヒノキ科・ヨモギ属・アカザ科の3種の花粉が含まれること,各種の花粉濃度は周期的にスパイク状のピークを示すことがわかった.酸素安定同位体比と比較した結果,花粉濃度ピークと酸素安定同位体比の季節プロファイルと比較したところ,季節によって異なる種の花粉ピークが現れることがわかった.岩盤まで掘削した深さ37 m のCore 3を分析した結果,同じ場所で掘削されたにも関わらず層位や同位体変動がCore 2とは大きく異なり,融解再凍結の影響を強く受けていることがわかった.花粉分析の結果,表面から深さ15 mまでは周期的な花粉濃度ピークを含み,21年分の年層を決定することができた.一方,深さ15から26 mまでは花粉をほとんど含まないこと,深さ26 mから最深部までは再び花粉ピークが周期的に現れることがわかった.層位との比較の結果,花粉を含まない層には斜め方向の細長い気泡の筋が入っていたことから,クレバスによる再凍結氷層であることが示唆された.深さ26 m以深に含まれていた花粉分析の結果,約2600年前の花粉構成は現在と変わらないことがわかった.以上の結果より,Core 3は花粉分析によって年層決定が可能であったものの,クレバスによって分断されており,連続した古環境記録を保持していないことが明らかになった.Core 3の顕微鏡分析の際に,花粉だけでなく多数の地表面由来の鉱物粒子を含む層や,さらに無色透明で立方体や球状の形をした粒子が高濃度に含む層を発見した. SEM-EDS分析およびXRD分析の結果,無色透明の粒子は炭酸塩鉱物のカルサイトであることがわかった.その供給源ははっきりとはわからないが,大きさや形状から氷帽近くの間欠泉から結晶化した粒子が氷帽上に堆積した可能性がある.さらに,アイスコア下部には木炭粒子(チャコール)を含む層が複数見つかった.このことは,パミールアライ山域周辺で過去に大規模な森林火災が複数回起きていたことを示している.以上の結果,パミールアライ山脈で掘削したアイスコアの花粉分析により,氷帽の特殊な堆積条件と限定的な年層決定,過去の植生情報が明らかにすることができた.さらに,炭酸塩鉱物や木炭粒子を含む層の存在が明らかになり,これらのより詳細な分析からパミール特有の過去環境変動のイベントを明らかにできる可能性がある.