日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG30] 熱帯におけるマルチスケール大気海洋相互作用

2021年6月5日(土) 17:15 〜 18:30 Ch.08

コンビーナ:時長 宏樹(九州大学応用力学研究所)、小坂 優(東京大学先端科学技術研究センター)、清木 亜矢子(海洋研究開発機構)、東塚 知己(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)

17:15 〜 18:30

[ACG30-P01] 熱帯インド洋・太平洋における経年スケール海面水温偏差に含まれる外部変動の影響評価

*長谷川 拓也1,2、宮地 友麻1、谷本 陽一1,3 (1.北海道大学、2.東北大学、3.海洋研究開発機構)

キーワード:地球温暖化、外部変動、海面水温、エルニーニョ・インド洋ダイポール・インド洋海盆規模昇温、熱帯インド洋・太平洋

大気海洋作用系で閉じた自然変動現象を調べるために、解析対象とするデータから人為起源の地球温暖化や火山噴火などの外部強制に伴う変動成分(以下、「外部変動」と呼ぶ)を除去する必要がある。従来は、データの各格子点における線形トレンドを外部変動とみなす方法が主に用いられてきた(以下、「LT法」と呼ぶ)。一方、Steinman et al. (2015)やDai et al. (2015)は、複数の気候システムモデル歴史実験結果から算出された全球平均地表気温偏差(GMST)を利用して外部変動を算出するという新しい手法(以下、「GMST法」)によって、地表気温や海面水温の十年・数十年スケールの外部変動を評価した。本研究では、気候変動に大きな役割を果たす経年スケールの海面水温偏差に関して、LT法とGMST法を比較し、GMST法の効果を検証することを目的とする。

GMST法では、複数のモデルおよび各モデルの複数のアンサンブルメンバーを用いて、それぞれのシミュレーション結果からGMSTを計算する。そして、全シミュレーションのGMSTを平均した値(GMSTmme)が外部変動を代表するものとみなす。本研究ではCMIP5歴史実験結果(MIROC5を含む12モデルのそれぞれ3アンサンブルメンバー; 計36通りのミューレション結果)を用いてGMSTmmeを算出した。次に、GMSTmmeに対する各格子点の海面水温偏差の線形回帰係数(α)を求めて、αとGMSTmmeの積により、各格子点における海面水温偏差の外部変動を算出した。この外部変動を元の海面水温偏差から除去することで、外部変動を含まない海面水温偏差の内部変動が各格子点で求まる。

LT法にかえてGMST法を用いる効果を調べるために、ENSOの特徴についてLT法とGMST法による違いを調べた。そのために、観測SSTデータであるCOBE SST 2 (解析期間: 1850年から2017年)を用いて、LT法によって補正されたSST偏差(SSTA_LT)とGMST法によって補正されたSST偏差(SSTA_GMST)をそれぞれ算出した。その後に、ENSO指数であるNino-3 indexを、SSTA_LTとSSTA_GMSTそれぞれで算出した。Nino-3 indexに対する時系列解析から、GMST法は1960-1999年の期間でLT法に比べてNino-3 indexの振幅が約0.2℃低く、2000-2017年では約0.2℃高いことが示された。また、エルニーニョとラニーニャのイベント持続時間においても両者で0.5ヶ月程度の違いが生じた。LT法にかえてGMST法を用いることによる効果の大きさを示す指標として、SSTA_GMSTから算出されたNino-3 indexの標準偏差(SD)に対する、LT法とGMST法によって算出されたNino-3 indexの外部変動の平均二乗偏差(RMSD)の比をRとして定義した(R = RMSD/SD x 100)。Rの値は、両期間ともおよそ10%程度であった。

さらに、インド洋海盆昇温 (IOBW)に関して、GMST法とLT法の違いを調べた。IOBW indexの振幅における両手法の違いはNino-3 indexより50%程度大きく0.3℃程度であった。また、IOBW indexの振幅がNino-3 indexの数分の一であった。IOBW indexにおけるRは約50%となった。一方、インド洋ダイポールモードindex(DMI)に関しては、GMST法とLT法の差は非常に小さかった。これは、DMIが西部赤道インド洋のSST偏差と東部赤道インド洋のSST偏差の差として定義されるため、DMIを算出する際にその差が相殺されるためである。

解析期間の違いがGMST法の効果の大きさに及ぼす影響を調べるために、長期と短期の2つの解析期間(長期は1850から2017年、短期は1958年から2017年)において全海盆でRをそれぞれ計算した。その結果、長期解析結果は短期解析結果と比較して、全海盆においてRが10から20%程度大きくなることが示された。くわえて、歴史実験およびRCP4.5実験(1850-2100年)を用いて、より長期間でGMSTmmeを算出した。そして、COBE SST2にかえてMIROC5の1アンサンブルメンバーのSST偏差(歴史実験およびRCP4.5実験)を用いて、1850年から2100年の間で解析期間を変えてRを算出した。その結果、COBE SST2を用いた解析結果と同様に、より長期になるほど全海盆においてRが大きくなることが示された。本研究結果は、算出期間の違いによって従来のLT法では外部変動の誤差が大きくなる場合があり、GMST法の有用性が高まることを示唆する。