日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG31] 航空機・無人機観測による地球惑星科学の推進

2021年6月3日(木) 15:30 〜 17:00 Ch.12 (Zoom会場12)

コンビーナ:高橋 暢宏(名古屋大学 宇宙地球環境研究所)、小池 真(東京大学大学院 理学系研究科 地球惑星科学専攻)、町田 敏暢(国立環境研究所)、篠田 太郎(名古屋大学宇宙地球環境研究所)、座長:小池 真(東京大学大学院 理学系研究科 地球惑星科学専攻)、高橋 暢宏(名古屋大学 宇宙地球環境研究所)

16:30 〜 16:45

[ACG31-05] 固定翼型無人航空機による沿岸赤潮検知の試み

*山口 創一1、小出 将大1、三根 崇幸2、岩永 卓也2 (1.九州大学、2.佐賀県有明水産振興センター)

キーワード:赤潮、固定翼型無人航空機、分光放射、有明海

赤潮の実態解明には、その発生初期から増殖期を経て減衰期に至る一連の過程を時空間的に高解像度で把握することが重要となる。海面クロロフィルa(Chl-a:植物プランクトン群集の指標)濃度取得方法の一つは船舶による観測であるが、時空間解像度を確保するには多大な労力と費用を要する。もう一つの方法である人工衛星による海色リモートセンシングは、空間的なモニタリングが可能であるが、衛星の周回軌道や天候(雲)、海水濁度や本研究の対象海域である有明海奥部では海面に張られたノリ等の影響を受け、十分な時空間解像度のデータ入手は困難である。無人航空機(UAV)を用いた観測は、時空間解像度の高いデータの入手が容易であるため、近年脚光を浴びている。本研究では分光放射計を搭載した固定翼型無人航空機による時空間高解像度の海面Chl-a濃度リモートセンシング手法の確立を目指すと共に沿岸海域の赤潮検出を試みた。

Chl-a濃度推定のためにハンディ分光放射計(UPRtek社製PG200N)をUAVに搭載した。PG200Nは可視光域(350 nm~800 nm)の分光データを波長分解能1 nmで計測することが可能であり、植物プランクトンが有するChl-a色素の光学特性を利用した濃度推定を行うことができる。小型軽量でありUAV搭載に適している。観測では上空から海面に入射する放射照度と海面から放出される放射輝度を測定した。得られたスペクトルデータからChl-a濃度を推定するにあたり、各波長の反射率(=海面からの上向き放射輝度/上空からの下向き放射照度)を算出し、3波長モデル(Dall’Olmo, G. and Gitelson, A.A., 2003)に適用した。

 現地観測は2020年12月7日、18日及び2021年1月5日に行い、固定翼型無人航空機にはOPTiM Hawk V2 (株式会社OPTiM製)に2台の分光放射計をセンサーが真上と真下を向くように取り付けて計測を行った。OPTiM Hawk V2の飛行速度は70km/hourとし、5秒おきに分光データを取得するように設定した。これによりデータの空間解像度は約100 mとなる。

 固定翼型UAVによる3回の観測データから3波長モデルにより推定したChl-a濃度と現地観測による実測値には全体として高い相関を得ることが出来た。ただし、Chl-a濃度が高い海域で推定誤差が大きくなる傾向にあった。植物プランクトンが高濃度化した場合、色素が重なり合うことによる単位Chl-a濃度当たりの光吸収係数が変化する「パッケージ効果」が生じ、海色リモートセンシングによる推定Chl-a濃度は過小もしくは過大評価されることが知られている。そこで共分散分析にかけて、パッケージ効果の表れるChl-a濃度の閾値を推定した。この閾値に基づいて高濃度Chl-a推定値を補正した結果、高濃度域においても高精度に推定することのできるアルゴリズムの開発に成功した。3回の観測では赤潮の局所的な初期発生と目される高濃度領域が検出され、このことからUAVを用いた本観測は沿岸域における赤潮の時空間高解像度の把握に十分な性能を有していることが確認できた。