日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG35] 地球規模環境変化の予測と検出

2021年6月4日(金) 15:30 〜 17:00 Ch.08 (Zoom会場08)

コンビーナ:河宮 未知生(海洋研究開発機構)、立入 郁(海洋研究開発機構)、建部 洋晶(海洋研究開発機構)、V Ramaswamy(NOAA GFDL)、座長:立入 郁(海洋研究開発機構)、河宮 未知生(海洋研究開発機構)

16:15 〜 16:30

[ACG35-10] The response of ocean biogeochemical cycles to global warming and anthropogenic nutrient inputs from atmosphere and rivers

*山本 彬友1、羽島 知洋1、山崎 大2、相田 真希1、河宮 未知生1 (1.国立研究開発法人 海洋研究開発機構、2.東京大学生産技術研究所)

キーワード:大気からの栄養塩流入、河川からの栄養塩流入、地球温暖化、海洋基礎生産、貧酸素化、地球システムモデル

地球温暖化による海洋の成層化は、海洋の一次生産と溶存酸素濃度を減少させる。一方、施肥や土地利用の変化、化石燃料の燃焼などの人間活動による海洋への栄養塩流入は、海洋の生産性を刺激し、海洋のCO2吸収や貧酸素化を促進する。しかし、これら2つの要因が複合的に全球スケールの海洋生態系•物質循環に与える影響については、ほとんど知られていない。本研究では、IPCC AR6に貢献する為に新しく開発された地球システムモデルMIROC-ES2Lによる過去再現実験を用いて、大気沈着や河川からの人為起源の栄養塩流入に伴う一次生産の増加が、地球温暖化による一次生産の減少の大部分を相殺していることを示す。一次生産増加の主な要因は、大気からの窒素沈着の増加であった。産業革命前から現在までの窒素沈着と河川窒素の増加量は同程度であったにもかかわらず、一次生産増加に対する河川窒素の寄与は窒素沈着の半分程度であった。これは河川窒素の大部分が河口域における脱窒の増加によって消費され、海洋内に蓄積する窒素量を制限するためである。

人為起源栄養塩の流入に伴う一次生産の増加は、有機物の分解を増加させ、亜表層での貧酸素化を引き起こす。上層1000mにおいて、この人為起源栄養塩の流入に伴う酸素減少は温暖化に伴う酸素減少と同程度であった。現在の解像度の荒い全球モデルでは、観測された酸素減少速度を過小評価する傾向にあるが、我々のシミュレーションは、人為起源栄養塩の流入に伴う貧酸素化を考慮することで、観測されたグローバルの貧酸素化トレンドの再現性が向上することが明らかとなった。21世紀のいくつかのシナリオの下では、人間活動に伴う海洋への栄養塩流入は増加または比較的一定であるため、これらの結果は、人為起源栄養塩の流入が海洋生態系•物質循環の将来予測においても重要であることを示唆している。