14:15 〜 14:30
[ACG37-03] 陸域窒素循環の大気-陸面相互作用面における研究展開への期待
キーワード:窒素、N2O放出、脱窒、生物的窒素固定、大気沈着、フラックス観測
20世紀初期に確立したハーバー・ボッシュ法は,大気中の安定な分子窒素(N2)からアンモニア(NH3)の人工合成を可能とした.このNH3をスタート物質として人類は多様な反応性窒素(Nr:N2を除く窒素化合物の総称)を作り出し,その約80%が化学肥料として作物生産に用いられている.肥料がもたらす作物生産の余力は家畜生産も大きく伸ばし,世界人口の増加を支えてきた.ただし,食料生産の窒素利用効率(投入した窒素のうち最終産物にとどまる割合)は低く,世界平均では農作物で約50%,畜産物で約10%とされる.残りは必然的にNrやN2として環境に排出される.加えて,化石燃料に代表される燃焼起源エネルギー転換においても窒素酸化物などのNrが発生する.環境に排出されたNrは,物理化学的に様々な形態に変化しつつ環境中を巡り,安定なN2に再び戻るまで,各形態の特性に応じて温暖化,成層圏オゾン破壊,大気汚染,水質汚染,富栄養化,酸性化などの多様な影響をもたらし,人の健康や生態系の健全性(多様性や機能)に負の効果をもたらす.この複雑な図式を窒素カスケードという.人類の窒素利用は,肥料を通じた食料という便益と多様な環境影響という脅威を伴うトレードオフであり,窒素問題とも称する.この状況に対し近年は,国際プロジェクト(INMS:https://www.inms.international/)や国連環境計画による報告(Nitrogen Fix:https://wedocs.unep.org/handle/20.500.11822/27543)などの問題解決に向けた取り組みが進展しつつある.窒素問題に対処するには,どの活動によりどのNr種がどれだけ排出され,環境中をどのように変質しながら巡り,どの環境媒体にどれだけの負荷を与え,その結果どのような影響が生じるのか,また,各種の対策はNr排出やNrがもたらす影響のどこにどれだけの効果をもたらし,一方,予期しなかった不利益をもたらすことになったのかを正しく知る必要がある.以降,話題を窒素排出による陸域生態系影響に絞ると,大気-陸面間の窒素の出入りは欠かせない基礎情報である.なぜなら,安定なN2をも取り込む生物過程を含めて,大気-陸面間には多様で盛んな窒素交換過程が存在するからである.例えば,大気から陸面へのフラックスとして生物的窒素固定(BNF)および窒素沈着(窒素化合物の湿性・乾性沈着),陸面から大気へのフラックスとして脱窒に伴うガス放出(N2や一酸化二窒素[N2O]),NH3揮散,および野火に伴うガス・粒子状窒素化合物の放出などが存在する.量的にはBNFと脱窒によるN2の出入りが大きく,環境影響面では窒素沈着,NH3揮散,およびN2O放出が特に重要である.
数値モデルや衛星観測は,大気-陸面間の窒素交換の広域評価の有効な手段である.特に窒素沈着やN2O放出についてモデル相互比較研究が行われている.ただし,BNFや脱窒のフラックスは大まかな推計に留まっている.衛星観測で得られる情報は大気柱の存在量(≒濃度)であり,フラックス換算には工夫が必要である.地表における大気-陸面間フラックス観測研究は,モデル・衛星観測研究に検証データを与える重要な役割をもつ.観測研究はさらに,未知が多い窒素循環の各過程のメカニズム解明にも必要である.窒素沈着では恒常的なモニタリングが行われるようになったものの(例:日本の1980年代からの酸性雨対策調査から2000年以降の東アジア酸性雨モニタリングネットワークへの展開;ただし,乾性沈着の情報はいまだ乏しい),他の過程については個別研究が散発的に行われてきたのが実状である(例:演者による大気-水田・森林間の窒素交換,田畑のNH3放出,水田のBNF,北極ツンドラのN2O放出など).モデル・衛星観測研究との密接な連携を企図した窒素交換観測研究の広域展開は実現していない.この発表では,N2O放出,特に農地のN2O放出に着目する.Global N2O Budgets (Tian et al., 2020) によれば,農地は人為起源最大のN2O放出源であり(2007~2016年平均で52%の寄与),他の人為発生源の削減傾向に対して農地放出は増加し続けている.世界人口と食料需要が当面は増加を続けることを考慮すると,農地N2O放出の積極的な削減対策を講じ,その効果を正しく評価することが求められる.また,大気CO2濃度の増加や気候変動がもたらす窒素循環の撹乱とそのN2O排出への影響は未知である.観測研究はフラックスデータとメカニズム解明をもたらす重要なアプローチである.そこで,発表時にはN2O(+他の化学種)の観測研究を効率的に展開していくアイデアを述べ,参加者と議論して,実現への切っ掛けが生まれることを願う.
数値モデルや衛星観測は,大気-陸面間の窒素交換の広域評価の有効な手段である.特に窒素沈着やN2O放出についてモデル相互比較研究が行われている.ただし,BNFや脱窒のフラックスは大まかな推計に留まっている.衛星観測で得られる情報は大気柱の存在量(≒濃度)であり,フラックス換算には工夫が必要である.地表における大気-陸面間フラックス観測研究は,モデル・衛星観測研究に検証データを与える重要な役割をもつ.観測研究はさらに,未知が多い窒素循環の各過程のメカニズム解明にも必要である.窒素沈着では恒常的なモニタリングが行われるようになったものの(例:日本の1980年代からの酸性雨対策調査から2000年以降の東アジア酸性雨モニタリングネットワークへの展開;ただし,乾性沈着の情報はいまだ乏しい),他の過程については個別研究が散発的に行われてきたのが実状である(例:演者による大気-水田・森林間の窒素交換,田畑のNH3放出,水田のBNF,北極ツンドラのN2O放出など).モデル・衛星観測研究との密接な連携を企図した窒素交換観測研究の広域展開は実現していない.この発表では,N2O放出,特に農地のN2O放出に着目する.Global N2O Budgets (Tian et al., 2020) によれば,農地は人為起源最大のN2O放出源であり(2007~2016年平均で52%の寄与),他の人為発生源の削減傾向に対して農地放出は増加し続けている.世界人口と食料需要が当面は増加を続けることを考慮すると,農地N2O放出の積極的な削減対策を講じ,その効果を正しく評価することが求められる.また,大気CO2濃度の増加や気候変動がもたらす窒素循環の撹乱とそのN2O排出への影響は未知である.観測研究はフラックスデータとメカニズム解明をもたらす重要なアプローチである.そこで,発表時にはN2O(+他の化学種)の観測研究を効率的に展開していくアイデアを述べ,参加者と議論して,実現への切っ掛けが生まれることを願う.