日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG37] 陸域生態系の物質循環

2021年6月5日(土) 13:45 〜 15:15 Ch.08 (Zoom会場08)

コンビーナ:加藤 知道(北海道大学農学研究院)、市井 和仁(千葉大学)、伊勢 武史(京都大学フィールド科学教育研究センター)、寺本 宗正(鳥取大学乾燥地研究センター)

14:30 〜 14:45

[ACG37-04] 陸面過程モデルを使用した雪氷藻類繁殖の全球計算

*大沼 友貴彦1、芳村 圭1、竹内 望2 (1.東京大学生産技術研究所、2.千葉大学大学院理学研究院)

キーワード:雪氷藻類、数値モデリング、陸面過程モデル

雪氷藻類とは,寒冷環境に適応した光合成微生物の総称であり,夏季の積雪内や氷河氷床の表面で繁殖活動を行っている.なかでもSanguina nivaloidesと呼ばれる緑藻は,細胞内にカロテノイド色素を多量に含むため,その繁殖により積雪表面を赤に着色させる赤雪と呼ばれる現象を発生させ,雪氷面のアルベドを0.1-0.2ほど低下させることが知られている.この赤雪現象は,世界中の積雪域で現地あるいは衛星観測により報告されており,特に北極圏における雪氷融解加速の一因となっている.この赤雪現象を発生させるSanguina nivaloidesは北極から南極にかけて繁殖が報告されている種であるものの,どのような過程を経てこの種が全球に分散したのかは明らかになっていない.したがって,その繫殖を数値計算によって全球規模で再現することは地球環境と生態学の両面で重要である.しかしながら,雪氷藻類の繁殖を計算する数値モデルは北極圏の氷河を対象としたものしか現存せず,全球規模で適用可能な数値モデルを新しく開発する必要がある.そこで,著者らはこれまで開発してきたsnow algae model (Onuma et al., 2018; 2020) に日周期の繁殖過程と降雪被覆による繁殖抑制過程を導入し,北極から南極までの15地域の積雪の現地観測結果を用いて検証を実施した.検証の結果,改良したモデルは赤雪の発生時期の大幅な改善が全検証地域で確認され,開発したモデルの全球展開が可能であると示唆された.この改良したsnow algae modelを陸面過程モデルMATSIROに導入し,全球雪氷藻類繁殖モデルBio-MATSIROを構築した.Bio-MATSIROを用いて雪氷藻類繁殖の全球計算を実施したところ,北半球では6-8月,南半球では12-2月ごろに雪氷藻類の繁殖がみられ,雪氷藻類繁殖の時空間変化は先行研究の現地観測情報と概ね一致した.今後Bio-MATSIROを用いることで,雪氷藻類の地理的分布や繁殖時期を推定し,雪氷藻類の雪氷融解への寄与,生物地理学的な分布,炭素固定量の実態も定量化できる可能性がある.