日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG39] 北極域の科学

2021年6月4日(金) 17:15 〜 18:30 Ch.08

コンビーナ:中村 哲(北海道大学大学院地球環境科学研究院)、小野 純(海洋研究開発機構)、島田 利元(宇宙航空研究開発機構)、両角 友喜(北海道大学 大学院農学研究院)

17:15 〜 18:30

[ACG39-P07] ALOS-2干渉SARで検出された東シベリア・チュラプチャにおけるサーモカルストに伴う地盤変動

*阿部 隆博1、飯島 慈裕1 (1.三重大学大学院生物資源学研究科)

キーワード:永久凍土、サーモカルスト、干渉SAR、ALOS-2

サーモカルストは含氷率の高いエドマ層における地下氷の融解によって引き起こされる不可逆的な地形変化現象で, 東シベリアやアラスカで広く観測されている. 東シベリアのレナ・アルダン川中流域に囲まれた地域では, サーモカルストに伴う地形変化がこの30年で顕著にみられ, 地盤沈下によるインフラ破壊や, 水収支・生態系の変化など, 近隣住民の生活に影響を与えている. チュラプチャはサハ共和国の首都ヤクーツクから東へ140 kmほどの場所に位置し, レナ・アルダン川中流域においてサーモカルストの進行が顕著に見られる代表的な市街地の一つである. Saito et al. (2018) ではチュラプチャ南部の空港跡地と放棄された耕作地においてドローン空撮により高分解能な地形図を作成し, 1990年からの沈降量を推定した. しかしながら, チュラプチャの他の場所では地盤沈下量の計測はされておらず、街全体の沈降量の体系的な把握には至っていない. 今後サーモカルストがどのような場所で進行するのか予測し, 凍土融解による人々への影響を最小限にするためにも, 現在のサーモカルストの速度と空間分布を定量的に把握することが重要である.

本研究では, 人工衛星搭載の合成開口レーダー(SAR)を用いた干渉SAR解析によって, 地表面変位の経年変化を調べた. SARデータ解析には, 宇宙航空研究開発機構が2014年に打ち上げた「だいち2号 (ALOS-2)」が2015年から2020年にかけて取得した計6シーンを用いた. 6シーンから作りうる計15枚の干渉画像を作成し, このうちペアの画像撮像期間が3年以内かつ同年の画像を用いていないシーンで生成された11枚の干渉画像を選択し, スタッキング処理を行うことでこの5年間の経年的な変位速度を求めた. 干渉画像の基準点はチュラプチャ住宅街から南東部のアラス内に設定にした. アラスはサーモカルストの最終過程で形成される窪地であり, 地盤変動の経年変化が周囲に比べて起こりにくいと考えることができる.

干渉SAR解析の結果, 住宅街の北部にある耕作地(T1, T2)と西側(T3)および南側にある草原地帯(T4およびT5)で顕著な地盤沈下が見られた. 沈降速度の大きさは最大で2.4 cm/yrであった. これらの場所ではWorldView-2/-3/-4による高分解能光学画像から, いずれも無数のハイセンターポリゴン(サーモカルストの指標地形の一つ)の存在が確認できた. また, この地域における1945年と2009年の土地利用の変化(Gorokhov et al., 2011)から, T1とT2はこの期間に草原から耕作地に改変されていたことがわかった. さらにこれらの場所は, 住宅地周辺のアラスから見て, 数十メートル高い標高に位置しており, その分だけ地中には地下氷が解け残っている可能性がある. 以上のことから, T1とT2では土地利用の改変により植生が減り, 日射の影響や水収支が変わることで周囲に比べてサーモカルストが進行したと考えられる. しかしながら, T1・T2とほぼ同じ標高で数km東側に位置する耕作地では沈降が見られなかった. この場所でもポリゴン地形は明瞭に確認されていることから, サーモカルストは起こっているはずである. この場所でほとんど沈降が検出されなかった要因として, 同じ土地利用(耕作地)でもその仕方によって沈降速度が異なる可能性が示唆される. 一方, 草原において検出されたサーモカルスト(T3-T5)はこの期間で土地利用の変化はなく, この気候変動における影響(気温/地温上昇, 水収支の変化)を受けていると考えられる.