日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG40] 沿岸海洋⽣態系─1.⽔循環と陸海相互作⽤

2021年6月3日(木) 09:00 〜 10:30 Ch.10 (Zoom会場10)

コンビーナ:藤井 賢彦(北海道大学大学院地球環境科学研究院)、杉本 亮(福井県立大学海洋生物資源学部)、山田 誠(龍谷大学経済学部)、座長:藤井 賢彦(北海道大学大学院地球環境科学研究院)、杉本 亮(福井県立大学海洋生物資源学部)、山田 誠(龍谷大学経済学部)

10:00 〜 10:15

[ACG40-05] 瀬戸内海豊後水道東部におけるカレニア赤潮の発生時期・規模と環境要因の関連性

*林 由真1、吉江 直樹1、鬼塚 剛2 (1.愛媛大学沿岸環境科学センター、2.国立研究開発法人 水産研究・教育機構 )


キーワード:カレニア ミキモトイ、豊後水道、外洋水進入、気象、海況

はじめに

ブリやタイの養殖が盛んな豊後水道東岸域(宇和海)では,毎年のように渦鞭毛藻Karenia mikimotoiに よる赤潮が発生し,養殖業への被害が頻発しており,2012年には12億円以上の漁業被害が生じた.漁業被害軽減には,赤潮発生以前の早い時期から対策をとることが重要であり,それにはK.mikimotoi赤潮の動態を解明し,早期に予測する必要がある.これまでの研究から,黒潮外洋水の宇和海への進入現象(表層進入:急潮,底層進入:底入り潮)が赤潮発生・消滅に影響を及ぼしており(鎌田ら,2010),5月上旬の急潮と6月下旬の底入り潮が赤潮発生時期・規模に寄与することが示唆されてきた(高倉,2017).また,K.mikimotoiは,他の植物プランクトンに比べ低光量環境での光合成能が相対的に高く,低日照の梅雨時期に増殖しやすいという生理的特性を持ち,日照時間や降水量などの気象条件が赤潮発生に影響することが示唆されている(鬼塚ら,2021).

本研究では,近年(2017-2020年)の海象・赤潮データを加え,外洋水進入の影響を再評価すると共に,宇和海だけでなく九州・中四国といった広域における赤潮に影響を及ぼす気象条件(降水・日照)・海水温と赤潮発生時期・規模との関係性について解析し,赤潮予測に利用できる環境要因について検討した.

方法

 外洋水の進入強度については,宇和海中央部に位置する愛媛県塩子島における1997年~2020年の海水温データ(水深5m・60m)の日平均値を用いて,Takeoka et al,(2000)の手法により,5-8月にかけて10日ごとの「急潮強度」・「底入り潮強度」を算出した.気象条件については,気象庁アメダスの宇和島観測点の「降水量」・「日照時間」の日平均値を用いた.海象条件としては,塩子島水深5mにおける「表層海水温」の日平均値を用いた.K.mikimotoi赤潮については,瀬戸内海漁業調整事務局の瀬戸内海の赤潮および愛媛県農林水産研究所水産県センター観測資料から,豊後水道全域(大分・愛媛・高知沿岸)と宇和海における「年最初の発生日」・「年最大細胞密度」を抽出した.環境条件と赤潮との相関にはMathWorks社製技術計算言語のMATLABを利用した.

結果と考察

直近の観測データを加えた急潮強度,底入り潮強度と赤潮との関連性を解析したところ,5月上旬の急潮強度と豊後水道における年最初の発生日の間に有意相関(r=0.60 ,p<0.01)が認められ,5月上旬の急潮が強いと発生日が遅くなる傾向が明らかとなった.一方,底入り潮強度と赤潮の間には有意な相関関係が認められなかった.

降水量・日照時間・表層水温・梅雨入/終・赤潮発生日の経年及び時間変化を図1に示す.気象条件と発生日に注目すると,大雨が降った直後に赤潮が発生する傾向がみられ6月上旬の降水量と宇和海における年最大細胞密度(赤潮規模)の間に有意相関(r=0.58,p<0.05)が認められた.一方,日照時間とは明瞭な関係性は認められなかった.晩春から初夏にかけて表層水温に注目すると,2002年から2016年にかけて5月の20℃到達時期の早期化に同期して赤潮発生日が早期化しており,20℃到達日と宇和海における発生日の間に有意な相関(r=0.52,p<0.05)が認められた.以上より5月の表層水温が赤潮発生時期に,6月上旬の降水量が赤潮規模に影響を及ぼすことが示唆された.

結論

本研究から,宇和海におけるK.mikimotoi赤潮予測に利用できる環境因子として①5月上旬の急潮強度,②5月の表層水温,③6月上旬の降水量が抽出された.これらは気象庁アメダス・宇和海水温情報システム“You see-U sea”から誰でもリアルタイムで無料で入手可能であり,赤潮発生の1-2ヶ月前から早期・中期・直前と段階的な赤潮予測に活用されることが期待できる.