日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG41] 沿岸海洋生態系─2.サンゴ礁・藻場・マングローブ

2021年6月3日(木) 17:15 〜 18:30 Ch.07

コンビーナ:梅澤 有(東京農工大学)、宮島 利宏(東京大学 大気海洋研究所 海洋地球システム研究系 生元素動態分野)、渡邉 敦(笹川平和財団 海洋政策研究所)、樋口 富彦(東京大学大気海洋研究所)

17:15 〜 18:30

[ACG41-P05] Linear and non-linear analysis for high temperature and acidification event in the Great Barrier Reef based on the observation in the Coral Sea

*所 立樹1,2、中岡 慎一郎1、高尾 信太郎1 (1.国立環境研究所、2.港湾空港技術研究所)

キーワード:グレートバリアリーフ、高水温化、酸性化

将来のサンゴ礁の健全度の予測において,陸域からの負荷と同様に外洋からもたらされる地球規模変動による影響の評価は重要な課題である.例えば,2016‐2017年のグレートバリアリーフ(GBR)の広範囲におよぶ白化現象はエルニーニョに伴う海水の高温化が原因とされているが,過去のエルニーニョイベントとGBRの白化現象は必ずしもリンクしておらず,サンゴ礁の将来予測のためには詳細な解析が必要である.また,海洋酸性化による炭酸塩飽和度(Ω)の減少はサンゴ骨格の成長阻害をもたらすことが予測されているが,サンゴ礁水域におけるΩの定量的な評価や高温イベントとの複合作用については知見が乏しいのが現状である.

本研究では, GBRの外洋エンドメンバーに相当するCoral Seaにおいて国立環境研究所(環境研)の篤志貨物船観測による2006年から2018年までのデータを用いて,GBRにおける高温イベントやΩの変動との関連について評価した.解析では線形解析に加えて機械学習(ランダムフォレスト・ガウス過程回帰)による非線形解析を用い,目的変数の回帰モデルの構築と重要な説明変数を抽出した.なお,高温イベントに関しては白化現象と相関が高いとされる Degree Heating Week (DHW; NOAA Coral Reef Watchから入手),Ωに関しては変動の主要因である塩分35で正規化した溶存無機炭素濃度(nDIC; 環境研の観測データから計算)をそれぞれの目的変数とした.

非線形解析のうちランダムフォレストにより構築した回帰モデルの結果を図1に示す.高温イベントに関しては,エルニーニョの指数となる南方振動指数(SOI)に加えてCoral Sea上の大気圧が重要パラメータとして抽出された.このことはエルニーニョ時のGBRでは複数の気象パターンが存在し,日射量を増加させるなどの特定のパターンが高温イベントをもたらしている可能性があることを示している.また,Ωの変動には海面水温と大気中CO2濃度の影響が強いことが明らかとなった.ただし,前者に関しては,Coral Seaの海面水温とnDICがともに上昇傾向にあるため,相関関係が見かけ上現れたものと考えられる.目的変数であるDHWとnDIC間では強い相関は確認されておらず,GBRにおける高温化と酸性化は独立した現象として進行していることが示唆された.発表では線形回帰解析の結果を示すとともに, 改良された回帰モデルを用いて,より詳細な解析結果を示す予定である.