日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG41] 沿岸海洋生態系─2.サンゴ礁・藻場・マングローブ

2021年6月3日(木) 17:15 〜 18:30 Ch.07

コンビーナ:梅澤 有(東京農工大学)、宮島 利宏(東京大学 大気海洋研究所 海洋地球システム研究系 生元素動態分野)、渡邉 敦(笹川平和財団 海洋政策研究所)、樋口 富彦(東京大学大気海洋研究所)

17:15 〜 18:30

[ACG41-P08] 環境DNAの応用によるマングローブ・海草藻場由来ブルーカーボンの深海貯留の検証──八重山諸島周辺海域の事例

*宮島 利宏1、浜口 昌巳2、中村 隆志3、片山 肇4、堀 正和5 (1.東京大学 大気海洋研究所 海洋地球システム研究系 生元素動態分野、2.水産研究・教育機構 水産技術研究所、3.東京工業大学 環境・社会理工学院、4.産業技術総合研究所 地質調査総合センター、5.水産研究・教育機構 水産資源研究所)

キーワード:沿岸湿地生態系、有機炭素移出、炭素隔離、深海堆積物、環境DNA

沿岸湿地生態系(マングローブ、塩生湿地、海草藻場の総称)は、高い一次生産能力とともにその生産物である有機炭素を堆積物中に長期にわたって貯留する機能を持つことから、気候変動緩和のための有力な二酸化炭素(CO2)吸収源として注目されている。これらの生態系からは、堆積物に貯留される有機炭素と同等かそれを上回る量の有機炭素が潮汐の作用によって外洋に流出している。この流出した有機炭素がもし分解されないうちに沈降によって密度躍層以深の深層に到達できれば、たとえその後に分解されてCO2になってもそれが大気に回帰するまでには数百年を要することから、少なくとも短期的にはCO2吸収源としてカウントすることができる。このため流出後の有機炭素の動態を正確に把握することが、吸収源機能の定量評価に向けた喫緊の課題となっている。

本研究では、環境DNA(DLP法)を応用することによって、沿岸湿地生態系で生産されて外洋域に流出した有機炭素の広域分布を定量的に評価することを試みた。事例研究として沖縄県石西礁湖周辺のマングローブと海草藻場を選び、石西礁湖とその外洋部の表層堆積物を採取して、マングローブ及び海草由来のDNAフラグメントの含有量を調査した。検出対象種はマングローブではヤエヤマヒルギ、オヒルギ、マヤプシキの3種、海草ではリュウキュウスガモ、ベニアマモ、ウミショウブの3種で、いずれも対象地域の優占種である。

水深の浅い石西礁湖内では速い潮流のため堆積物が存在しない場所が多く、存在する場所でもマングローブ・海草由来のDNAはほとんど検出されなかった。ただし石垣島名蔵川河口から名蔵湾北縁部にかけては表層堆積物からマングローブ・海草ともに多量のDNAが検出された。外洋部の表層堆積物に貯留されている有機炭素のδ13Cは-23‰から-19‰の範囲であり、プランクトン由来の有機炭素がその主要部分を占めていると示唆された。しかしながら石西礁湖の南側及び北側の外洋域の表層堆積物からは、海草のDNAは検出されなかったもののマングローブのDNAがしばしば検出された。特に八重山諸島北側の水深1000m以深の海底からはマングローブのDNAが高頻度で検出され、この付近の深海底がマングローブ由来の有機炭素のシンクとなっている可能性が示唆された。