15:00 〜 15:15
[ACG42-06] 山地流域の斜面と河道での洪水流出
キーワード:山地河川、ピーク伝播、流速、波速、斜面、河道
陸域から沿岸域まで連続して水や土砂の動態を理解する上で、山地流域の水や土砂の動態を解明することは重要である。特に、国土の約7割が山地に属する日本では、山地流域からもたらされた水や土砂が、平野部を中心に人間活動で利用され、残った部分が沿岸域にもたらされると考えることができる。このため、山地流域からの水や土砂の流出量は陸域のみならず、沿岸域の水や土砂動態を規定する最も重要な条件の1つとみなすことができる。しかし、山地流域では豪雨時と通常時で水・土砂の動態が劇的に変化する上、豪雨時の観測が困難であるため、依然として情報が限られている現状がある。本研究では現地観測や文献調査から明らかになった山地流域の斜面と河道での洪水流出の実態について紹介する。
これまで山地流域では、斜面と河道での水移動経路で降雨波形が流出波形になると考えられてきており、特に急峻で流域面積が比較的小さい山地流域では、地中の水移動で生じる斜面での波形変換が、開水路の流れである河道での波形変換に比べてより大きく流域での流出波形の遅れに影響していると考えられてきた。そのため山地流域では斜面での水移動について多くの研究が行われ、年に数回発生するような通常の出水時の実態はかなり明らかになってきたが、豪雨時はデータ取得が容易でないためよくわかっていなかった。また、山地河川は大小様々な礫からなる複雑な河床形態をしていることから、増水時には水深や流速分布が大きく変化すると考えられるが、観測が困難でたとえ流量がわかっても水深や流速が予測できない状況がある。
斜面の洪水流出について、静岡県南伊豆町にある東京大学演習林の流域面積0.02~4.5km2の河川16カ所に水位計を設置して1分間隔で水位を観測し、各地点までのピーク遅れ時間を調べた。それぞれの地点について地形解析から得た斜面と河道の流路長と、ピーク遅れ時間の関係を調べた。降雨の空間分布も考慮した。大雨時には河道の流路長とピーク遅れ時間の間に直線的な関係があったので、この関係の傾きから河道のピーク伝播速度を、切片から斜面でのピーク遅れ時間を推定した。毎年~数年に一度あるような大雨時には、平均すると約100mある斜面でのピーク遅れ時間は-1~2分と非常に短く、斜面でのピーク伝播速度は最大数m/sの早さであることがわかった。一方、河道でのピーク伝播速度は最大で2.9m/sだった。このように流域のピーク遅れ時間に対して斜面での側方流の影響が小さいという結果は、実験や理論研究からも明らかになってきている。
河道での洪水流出について、現地観測や文献調査から、大雨時の山地河川の河道抵抗の変化を明らかにした。実務では山地河川の洪水時の解析においてもマニングの粗度係数などが近似的に用いられてきた。河道抵抗の変化をマニングの粗度係数で表すと、水位上昇にともない粗度係数は、0.5以上から0.1以下と大幅に減少することがわかった。とはいえ水深がある程度以上になると、水深の変化に対して粗度係数の変化が小さくなることや、実測されてきた河道抵抗の最小値はこれまで基準としてきた値の範囲に比べて大きい場合が多いことなどがわかってきた。
以上をまとめると、豪雨時に斜面が十分に湿潤な状態になると斜面の洪水伝播速度は速くなり、斜面間の時間差も小さくなるため、雨水は一斉かつ速やかに河川に流れ出すと考えられる。さらに、急勾配だが凹凸の大きい山地河川は、河道の抵抗が大きいため流速があまり大きくならない。つまり、山地流域では、大雨時の降雨ピークから流出ピークへの遅れは、斜面ではわずかで、主に河道で生じていると考えられる。また、斜面から一斉に流出した雨水が抵抗の大きい河道に流れ込むため、水深を大きく上昇させやすいと考えられる。
これまで山地流域では、斜面と河道での水移動経路で降雨波形が流出波形になると考えられてきており、特に急峻で流域面積が比較的小さい山地流域では、地中の水移動で生じる斜面での波形変換が、開水路の流れである河道での波形変換に比べてより大きく流域での流出波形の遅れに影響していると考えられてきた。そのため山地流域では斜面での水移動について多くの研究が行われ、年に数回発生するような通常の出水時の実態はかなり明らかになってきたが、豪雨時はデータ取得が容易でないためよくわかっていなかった。また、山地河川は大小様々な礫からなる複雑な河床形態をしていることから、増水時には水深や流速分布が大きく変化すると考えられるが、観測が困難でたとえ流量がわかっても水深や流速が予測できない状況がある。
斜面の洪水流出について、静岡県南伊豆町にある東京大学演習林の流域面積0.02~4.5km2の河川16カ所に水位計を設置して1分間隔で水位を観測し、各地点までのピーク遅れ時間を調べた。それぞれの地点について地形解析から得た斜面と河道の流路長と、ピーク遅れ時間の関係を調べた。降雨の空間分布も考慮した。大雨時には河道の流路長とピーク遅れ時間の間に直線的な関係があったので、この関係の傾きから河道のピーク伝播速度を、切片から斜面でのピーク遅れ時間を推定した。毎年~数年に一度あるような大雨時には、平均すると約100mある斜面でのピーク遅れ時間は-1~2分と非常に短く、斜面でのピーク伝播速度は最大数m/sの早さであることがわかった。一方、河道でのピーク伝播速度は最大で2.9m/sだった。このように流域のピーク遅れ時間に対して斜面での側方流の影響が小さいという結果は、実験や理論研究からも明らかになってきている。
河道での洪水流出について、現地観測や文献調査から、大雨時の山地河川の河道抵抗の変化を明らかにした。実務では山地河川の洪水時の解析においてもマニングの粗度係数などが近似的に用いられてきた。河道抵抗の変化をマニングの粗度係数で表すと、水位上昇にともない粗度係数は、0.5以上から0.1以下と大幅に減少することがわかった。とはいえ水深がある程度以上になると、水深の変化に対して粗度係数の変化が小さくなることや、実測されてきた河道抵抗の最小値はこれまで基準としてきた値の範囲に比べて大きい場合が多いことなどがわかってきた。
以上をまとめると、豪雨時に斜面が十分に湿潤な状態になると斜面の洪水伝播速度は速くなり、斜面間の時間差も小さくなるため、雨水は一斉かつ速やかに河川に流れ出すと考えられる。さらに、急勾配だが凹凸の大きい山地河川は、河道の抵抗が大きいため流速があまり大きくならない。つまり、山地流域では、大雨時の降雨ピークから流出ピークへの遅れは、斜面ではわずかで、主に河道で生じていると考えられる。また、斜面から一斉に流出した雨水が抵抗の大きい河道に流れ込むため、水深を大きく上昇させやすいと考えられる。