17:15 〜 18:30
[ACG43-P04] セマンティックセグメンテーションを用いたフェーズドアレイ気象レーダーのリアルタイムデータ品質管理
キーワード:フェーズドアレイ気象レーダ、セマンティックセグメンテーション、品質管理
1:はじめに
30秒ごとにボリューム観測を行う事ができるフェーズドアレイ気象レーダー(PAWR)の観測データは、3次元降水ナウキャスト(Otsuka, et al., 2016. doi:10.1175/WAF-D-15-0063.1)やスマホアプリ「3D雨雲ウォッチ」等のリアルタイム降水予測に利用されている。精度の良い予測を行うためには観測データの品質管理(QC)が必要で、特に非降水エコー(地上の建築物や山地などに由来するクラッタ、レンジサイドローブエコーと呼ばれる強いエコーの前後に現れるフェイクエコー等)を取り除くことが重要である。現状のリアルタイムQCでは、ドップラー速度の閾値や反射強度のテクスチャ情報を用いてクラッタ判別を行っている。しかし、一定の閾値で様々な事例におけるQCを行うと誤判定が生じることがある。そこで、様々な事例において適切なQCを行うために、深層学習で画像から画素単位で物体検出をするセマンティックセグメンテーションを適用する。本研究ではセマンティックセグメンテーションを用いたQC手法を紹介し、今後の課題について述べる。
2:セマンティックセグメンテーションとデータの準備
本研究では、推測が高速なESPNet (Mehta, et al., 2018.arXiv:1803.06815v3)を用いた結果を報告する。データは、2015年から2017年に吹田PAWRで観測された対流性降水の10事例から選択し、仰角番号6から12番(仰角4.4°から9.4°に相当)の合計666枚の画像を用意した。また、層状性降水についても別の10事例を選択し644枚の画像を準備した。画像はレーダーで観測される方位角とレンジの極座標とした。反射強度のカラー画像を学習データとしてそれに対応するアノテーション画像(0=データなし、1=降水データ、2=非降水データ)を教師データとすることで、対流性降水、層状性降水の二つのモデルを作成した。アノテーションは従来手法で作成したQCフラグを利用して、目視によって誤判定と考えられるフラグのデータは出来る限り取り除いた。
3:セグメンテーションの結果
仰角6.2°の対流性降水(左)と層状性降水(右)の推論結果を直交座標のPPIに変換して図1に示す。入力データ(反射強度データ:上段)、推定結果(中段)とQCフラグ(下段:ここでは正解データとする)の例である。推定結果、QCフラグの黒い部分が非降水エコーと判断された部分である。対流性降水の推定ではフェイクエコーであるレンジサイドローブエコーが判別され、その判断は、従来のQCフラグと大変類似している。層状性降水の推定結果を見ると、この仰角では正解データと同様に非降水エコーはほぼ識別されておらず、モデル推定は正しく行われていたことがわかる。
4:データ処理時間
本研究では学習と推定をGeForce RXT 2080 Tiを1台搭載したLinuxサーバで行った。対流性降水では1仰角のデータの推定に約0.02秒かかり、降水面積の多い層状性降水では約0.04秒であった。観測データの読み出しは、Cythonを用いてCプログラムを呼び出すことで高速化を実現した(0.035秒/1ファイル、1ファイルは約40MB)。30秒ごとの観測で得られる110仰角のデータ処理を考えても、数秒程度でQC処理を行う見込みがたった。
5:今後の目標
低仰角および天頂角付近のデータは、現れる非降水エコーのタイプが大きく異なることから、仰角ごとにモデルを作成する必要がある。さらなる精度向上には、アノテーションとして用いるQCフラグを事例ごとにチューニングし、より正しい正解データを作成するとともに学習データの数も増やす必要があると考えている。最終目標は、データの読み込み、CNNによる対流性・層状性の判定、全仰角データのセグメンテーション、推定結果の集約と出力まで合わせて10秒以内で処理が行うための処理システムを完成することである。
謝辞:本研究は、JST AIP JPMJCR19U2の支援を受けたものである。
30秒ごとにボリューム観測を行う事ができるフェーズドアレイ気象レーダー(PAWR)の観測データは、3次元降水ナウキャスト(Otsuka, et al., 2016. doi:10.1175/WAF-D-15-0063.1)やスマホアプリ「3D雨雲ウォッチ」等のリアルタイム降水予測に利用されている。精度の良い予測を行うためには観測データの品質管理(QC)が必要で、特に非降水エコー(地上の建築物や山地などに由来するクラッタ、レンジサイドローブエコーと呼ばれる強いエコーの前後に現れるフェイクエコー等)を取り除くことが重要である。現状のリアルタイムQCでは、ドップラー速度の閾値や反射強度のテクスチャ情報を用いてクラッタ判別を行っている。しかし、一定の閾値で様々な事例におけるQCを行うと誤判定が生じることがある。そこで、様々な事例において適切なQCを行うために、深層学習で画像から画素単位で物体検出をするセマンティックセグメンテーションを適用する。本研究ではセマンティックセグメンテーションを用いたQC手法を紹介し、今後の課題について述べる。
2:セマンティックセグメンテーションとデータの準備
本研究では、推測が高速なESPNet (Mehta, et al., 2018.arXiv:1803.06815v3)を用いた結果を報告する。データは、2015年から2017年に吹田PAWRで観測された対流性降水の10事例から選択し、仰角番号6から12番(仰角4.4°から9.4°に相当)の合計666枚の画像を用意した。また、層状性降水についても別の10事例を選択し644枚の画像を準備した。画像はレーダーで観測される方位角とレンジの極座標とした。反射強度のカラー画像を学習データとしてそれに対応するアノテーション画像(0=データなし、1=降水データ、2=非降水データ)を教師データとすることで、対流性降水、層状性降水の二つのモデルを作成した。アノテーションは従来手法で作成したQCフラグを利用して、目視によって誤判定と考えられるフラグのデータは出来る限り取り除いた。
3:セグメンテーションの結果
仰角6.2°の対流性降水(左)と層状性降水(右)の推論結果を直交座標のPPIに変換して図1に示す。入力データ(反射強度データ:上段)、推定結果(中段)とQCフラグ(下段:ここでは正解データとする)の例である。推定結果、QCフラグの黒い部分が非降水エコーと判断された部分である。対流性降水の推定ではフェイクエコーであるレンジサイドローブエコーが判別され、その判断は、従来のQCフラグと大変類似している。層状性降水の推定結果を見ると、この仰角では正解データと同様に非降水エコーはほぼ識別されておらず、モデル推定は正しく行われていたことがわかる。
4:データ処理時間
本研究では学習と推定をGeForce RXT 2080 Tiを1台搭載したLinuxサーバで行った。対流性降水では1仰角のデータの推定に約0.02秒かかり、降水面積の多い層状性降水では約0.04秒であった。観測データの読み出しは、Cythonを用いてCプログラムを呼び出すことで高速化を実現した(0.035秒/1ファイル、1ファイルは約40MB)。30秒ごとの観測で得られる110仰角のデータ処理を考えても、数秒程度でQC処理を行う見込みがたった。
5:今後の目標
低仰角および天頂角付近のデータは、現れる非降水エコーのタイプが大きく異なることから、仰角ごとにモデルを作成する必要がある。さらなる精度向上には、アノテーションとして用いるQCフラグを事例ごとにチューニングし、より正しい正解データを作成するとともに学習データの数も増やす必要があると考えている。最終目標は、データの読み込み、CNNによる対流性・層状性の判定、全仰角データのセグメンテーション、推定結果の集約と出力まで合わせて10秒以内で処理が行うための処理システムを完成することである。
謝辞:本研究は、JST AIP JPMJCR19U2の支援を受けたものである。