日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG44] 海洋表層-大気間の生物地球化学

2021年6月3日(木) 15:30 〜 17:00 Ch.10 (Zoom会場10)

コンビーナ:亀山 宗彦(北海道大学)、岩本 洋子(広島大学大学院統合生命科学研究科)、野口 真希(国立研究開発法人海洋研究開発機構 地球表層システム研究センター)、笹野 大輔(気象庁)、座長:亀山 宗彦(北海道大学)

16:30 〜 16:45

[ACG44-05] 室内培養実験による大気水溶性有機態窒素の生成に及ぼす海洋窒素固定プロセスの影響の解明

*土橋 司1,2、鈴木 光次2、宮崎 雄三1 (1.北海道大学低温科学研究所、2.北海道大学大学院環境科学院)


キーワード:有機態窒素、海洋大気エアロゾル、窒素固定、トリコデスミウム、大気―海洋間地球化学

海洋表層から放出される大気エアロゾルは太陽光を反射・吸収するとともに雲の生成を通して大気の放射収支や降水過程に影響を与えるなど、気候変動の重要な支配要因の一つである。大気エアロゾル中の水溶性有機態窒素(WSON)はエアロゾルの水溶性特性や酸性度、光吸収特性などの物理化学特性に影響を与えると考えられている。これまでの発表者らによる北太平洋亜熱帯域での船上観測から、海洋表層の窒素固定生物による大気への有意なWSON放出・生成が示唆されている。海洋窒素固定生物の中でも、シアノバクテリアの一種であるTrichodesmium属は、熱帯・亜熱帯を中心に広く分布していることが知られており、全海洋における海洋窒素固定量の最大50%程度寄与しているとされている。しかしながら、海洋表層での窒素固定が大気へのWSONを含む反応性窒素の放出・生成に及ぼす影響は不明である。本研究では、海洋の窒素固定生物による大気反応性窒素の生成への影響を評価するため、温度・光照度条件の制御の下、人工海水中でTrichodesmium属を培養し、その過程での大気反応性窒素の組成・濃度を測定する室内実験を行った。

本研究では窒素固定生物として、室内培養実験で広く扱われているTrichodesmium erythraeum IMS101株(以下、Trichodesmium)を用いた。培養は25℃に制御されたインキュべーター内に設置したポリカーボネート製ボトル内でYBC-Ⅱ人工海水培地(15 L)を使って行った。大気中の粒子(PM2.5)・ガスをNILUインパクターにより3段階に分けて石英繊維フィルター上に捕集した。大気・海水試料は約24時間毎ごとに採取した。大気試料中の水溶性全窒素(WSTN)濃度と水溶性有機炭素(WSOC)濃度、および海水試料中の溶存態窒素(DN)濃度と溶存態有機炭素(DOC)濃度は全窒素測定ユニット付き全有機炭素計(TOC/TN計)で測定した。大気試料中の無機態窒素(IN)濃度はイオンクロマトグラフを用いて測定し、WSTNとINの濃度の差をWSON濃度と定義した。Trichodesmiumの現存量変化を把握するために、蛍光光度計を用いた生体内クロロフィルa蛍光強度と超高速液体クロマトグラフィー(UHPLC)を用いたクロロフィルa濃度の測定を行った。また、フローサイトメーター(FCM)を用いて培地中の従属栄養細菌濃度の測定を行った。

約1か月間の培養実験を通して、Trichodesmiumの増殖期から減衰期までの人工海水中の溶存態窒素濃度および大気反応性窒素濃度の時系列変動を追跡することができた。増殖期におけるクロロフィルa濃度と人工海水中のDN、DOC濃度およびDN/DOC比の増減には正の相関関係が見られたことから主に窒素固定に伴うDNとDOCが海水中へ放出され、特にDNがDOCに対してより多く放出されていたことが示唆された。増殖期では、クロロフィルa濃度と大気中のWSON濃度も正の相関関係を示した。さらに大気中のWSON濃度はアンモニウム塩の濃度よりも有意に高かった。これらの結果から、海水中のTrichodesmiumの増殖に伴う大気へのWSONの放出が初めて実証された。