日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG44] 海洋表層-大気間の生物地球化学

2021年6月3日(木) 17:15 〜 18:30 Ch.07

コンビーナ:亀山 宗彦(北海道大学)、岩本 洋子(広島大学大学院統合生命科学研究科)、野口 真希(国立研究開発法人海洋研究開発機構 地球表層システム研究センター)、笹野 大輔(気象庁)

17:15 〜 18:30

[ACG44-P01] 東経137度線における表面海水中全炭酸濃度の変動と亜熱帯モード水形成量との関係

*小野 恒1、石井 雅男1、飯田 洋介2、延与 和敬2、笹野 大輔2 (1.気象庁気象研究所、2.気象庁)

キーワード:東経137度線、全炭酸濃度、亜熱帯モード水、等密度面、10年規模変動、PDO

1. はじめに
著者らは、先行研究において気象庁の表面海水中二酸化炭素分圧(pCO2sea)データを基に、重回帰分析を用いて東経137度線における1980年代前半からの全炭酸濃度(DIC)の平均増加速度を求めた(Ono et al., 2019)。その際、さらに期間内のDIC増加速度の時間変動を調べることによって、亜熱帯北部の黒潮再循環域においてDICが10年規模で変動していることを示した。また、Kobashi et al. (2020)は、同じく東経137度線の亜表層に存在する亜熱帯モード水(STMW)の厚さに対応して密度躍層が10年規模で変動していることを発見した。そこで今回、黒潮再循環域の表面海水中DICの変動要因を探るため、東経137度線の北緯30度におけるDIC変動とSTMWの厚さや等密度面の変化との関係を調べた。

2. データと手法
主に気象庁による東経137度線の北緯30度における夏の観測データを使用した。DICは1994年以降の観測データを基に表面付近(表面および10m)の年毎の平均値を求め、線形回帰により長期トレンドを算出した。また、CTDの観測データを基に、1980年代以降における各等密度面の深さ、および亜表層のPotential Vorticity(PV)を算出し、PV < 2.0×10-10 m-1s-1を閾値としてSTMWの厚さを求めた。以上のようにして得られた長期トレンドを除去したDIC、等密度面の深さ、STMWの厚さ、それぞれについて3年移動平均を求め、各パラメータ間の相関関係を調べた。

3. 結果と考察
東経137度線の北緯30度における、表面海水中のnDIC(塩分規格化したDIC)の変動は、STMWの厚さと等密度面の深さの変動と非常によく一致しており(添付図a-c)、それぞれの相関係数 は 0.69、-0.77と高い値を示し、相関関係が有意であることがわかった(p<0.01)。これは、STMWが厚くなり、等密度面が浅くなるほど表面のnDICが高くなる傾向にあることを示している。つまり、2015年などの表面海水中のnDICが高い期間には、等密度面の浅化によって冬季の鉛直混合による下層から表面へのDIC供給が通常の時期よりも相対的に増加したことを表していると考えられる。
ここで、そもそもSTMWの形成量は、黒潮続流の安定・不安定(KE index)に応じて変動し、そのKE indexは太平洋十年規模振動(PDO)の影響を受けて変化することが知られている(Qiu and Chen 2005など)。そこで、PDOの変化と表面海水中nDICの変動とのラグ相関を調べたところ、ラグが4年のときに最も相関係数が高くなり、-0.77という値であった(p<0.01)。
今回の結果から、東経137度線の黒潮再循環域の表面におけるnDICの変動は、直接的にはSTMW形成量に応じた等密度面の深さの変動の影響を受けており、本を正せば4年の歳月を経たPDOの影響によるものであるということが示唆された。

添付図は、東経137度線の北緯30度におけるSTMWの厚さ(a)、σθ=25.0kg/m3の等密度面の深さ(b)およびトレンドを除去した表面海水中nDIC(c)の時系列を表す。黄色太線はそれぞれの値の3年移動平均を表す。(c)の青線は4年のラグを適用したPDO indexの月毎(細線)および3年移動平均(太線)の値を示す。